当院でのケタミン療法について
当院では、うつ症状や希死念慮などに対し、自由診療によるケタミン療法を行っています。
当院が重視しているのは、ケタミンを投与することだけではありません。
治療前に現在の状態やこれまでの経過を確認し、安全に治療を受けられる環境を整えること、そして治療後に生じた変化をその後の回復につなげることまでを、一つの治療過程として捉えています。
投与量や治療頻度を一律に決めるのではなく、症状、治療歴、生活状況、治療への希望などを踏まえて個別に治療計画を検討します。
また、必要に応じて精神療法を組み合わせ、症状の改善だけでなく、考え方や感情の扱い方、対人関係などに生じる変化にも目を向けます。
ケタミン治療開始前のオンライン診察について
当院では、初回のケタミン治療を受ける前に、治療の適否を確認するためのオンライン診察を必ず受けていただきます。
診察では、現在の症状やこれまでの治療経過を確認し、安全にケタミン療法を実施できるか、期待できる効果とリスクを踏まえて治療を受ける意義があるかを検討します。
現在の症状や診断名、これまでに使用した薬剤、治療への反応、副作用の経験、身体的な持病などに加え、現在どのような生活を送り、何に苦しみ、治療によってどのような変化を望んでいるのかについても伺います。
必要に応じて、生育歴、家族関係、仕事や学校での状況、対人関係の傾向などについて確認することもあります。
当院では、単に症状を軽減するだけではなく、症状が軽減した後に何をしたいのか、どのような問題に向き合いたいのかについても、治療前に整理することを重視しています。
ケタミン治療当日の流れ
診察は原則としてオンラインで行いますが、ケタミン治療そのものはクリニックへ来院して受けていただきます。
治療前には、その日の体調、睡眠、食事、服薬状況などを確認し、安全に治療を受けられる状態であることを確認します。
治療中は、リクライニングチェアに座り、リラックスした状態で過ごしていただきます。
外部からの刺激を少なくし、ご自身の内側に注意を向けやすくするため、希望に応じてイヤーマフやアイマスクを使用できます。当院でもご用意しています。
また、ご自身の好きな音楽をヘッドホンやイヤホンで聴きながら治療を受けることも可能です。音楽を希望される場合は、再生機器とヘッドホンまたはイヤホンをご持参ください。
当院では特定の過ごし方を求めることはなく、その日の状態やご希望に応じて、できるだけ落ち着いて治療を受けられる環境を整えます。
ケタミンは、原則として静脈点滴によって投与します。
腕の血管に点滴の針を留置し、点滴ポンプを用いて、あらかじめ設定した量のケタミンを一定の速度で投与します。点滴自体は30〜40分程度で終了します。
投与量は体重を基準としながら、現在の症状、治療反応、治療中の体験、副作用の現れ方などを踏まえて調整します。
血管が非常に細く点滴の確保が難しい場合や、点滴に対する強い恐怖心がある場合には、筋肉注射による投与を検討することもあります。
治療時間の目安 約2時間15分
ケタミン投与に伴う解離症状や知覚の変化、吐き気、めまいなどの副作用は、多くの場合2時間以内に軽減するとされています。
そのため当院では、治療前の体調確認や点滴の準備、ケタミンの投与、投与後の経過観察を含め、約2時間15分の治療時間を確保しています。
治療後は、意識の状態やふらつき、吐き気などを確認し、安全に帰宅できる状態になったことを確認してから治療を終了します。
治療回数や通院頻度について
ケタミン療法では、抑うつ症状や希死念慮への変化が投与後数時間から数日以内に現れることがあり、効果発現の速さが特徴の一つです。
一方で、効果の有無や程度、持続期間には個人差があります。1回の治療で大きく改善する方もいれば、十分な変化が得られない方や、効果が数日程度で弱くなる方もいます。
そのため、治療開始時には一定期間複数回の投与を行う方法がありますが、すべての方に同じ治療回数や頻度が適しているわけではありません。
当院では、一般的な治療プロトコルを参考にしつつ、症状の重さ、治療後の変化、副作用、仕事や家庭の事情、通院の負担、費用などを踏まえて、治療頻度を個別に調整します。
十分な効果が認められない場合や、継続により得られる利益より負担が大きいと判断される場合には、治療計画の変更や中止も検討します。
ケタミン治療後に精神療法を受けることも可能
ケタミンによって生じた変化をその後の回復につなげる方法の一つとして、精神療法を組み合わせる「ケタミン併用精神療法」が提唱されています。英語ではKetamine-Assisted Psychotherapyと呼ばれ、KAPと略されます。
精神療法では、治療者との対話を通じて、自分の考え方の癖、感情の扱い方、対人関係のパターン、過去の経験が現在に与えている影響などを整理します。
ケタミン療法によって、気分が軽くなったり、普段とは異なる視点から自分自身を捉えられたりすることがあります。しかし、その体験が一時的なものにとどまれば、日常生活に戻った際に以前の考え方や行動のパターンへ戻ることもあります。
そのため当院では、治療前に「現在何に苦しんでいるのか」「何を変えたいのか」を整理し、治療後には「治療中に何を感じたのか」「どのような考えや記憶が浮かんだのか」「その体験を今後の生活にどう生かすか」を振り返ることを重視しています。
当院では、各ケタミン治療の間に15分から1時間程度のオンライン診察を受けることを強く推奨しています。
診察では、治療の効果と副作用を評価し、次回の投与量、投与方法、治療頻度を検討します。また、治療中に生じた体験を振り返り、今後の生活や行動につなげていく作業も行います。
治療後の診察についても、原則としてオンラインで受けていただきます。
当院が精神療法の根拠とする治療理論について
精神療法には、精神分析、自我心理学、対象関係論、自己心理学、愛着理論、メンタライゼーション、認知行動療法、弁証法的行動療法、ナラティブ・アプローチなど、さまざまな治療理論があります。
当院では、特定の治療理論だけをすべての方に当てはめるのではなく、その方の状態や課題に応じて複数の視点を用います。
例えば、自分自身を責める考えが強い方には、認知行動療法的なアプローチが役立つ場合があります。対人関係で同じような苦しさを繰り返している方には、愛着理論やメンタライゼーションの視点から振り返ることが役立つかもしれません。
また、自分の人生や過去の経験をどのように捉えればよいか分からない方には、経験を一つの物語として整理し直すナラティブ・アプローチが役立つ場合もあります。
診断名が同じであっても、症状が生じた背景や抱えている苦しみは一人ひとり異なります。当院では、その方をより深く理解し、適切な治療を考えるために複数の治療理論を利用します。
理論については、以下のページで詳しく解説しています。