はじめに
うつ病や適応障害などで休職したあと、症状が十分に改善してくると、次に「いつ、どのように職場へ戻るか」を考える段階に入ります。
このとき重要なのは、本人が回復することだけではありません。休職に至った原因が職場にあったのであれば、その環境に何らかの調整が必要ではないかを考えることも大切です。
たとえば、長時間労働が続いたことで体調を崩した人が、十分に休養して元気になったとしても、復職初日から以前と同じ長時間労働へ戻れば、再び調子を崩す可能性があります。
特定の上司との関係が大きなストレスになっていたのであれば、その関係がまったく変わらないまま復職することにも不安が残ります。
厚生労働省の職場復帰支援の手引きでも、復職にあたっては単に「働けるか」を判断するだけでなく、業務内容や業務量、配置転換、勤務制度などを含めた職場復帰支援プランを検討し、復職後も必要に応じて見直していくことが示されています。
ただし、職場に環境調整を依頼しようとしても、
「何をお願いすればよいのか分からない」
「会社に迷惑をかけている気がして、希望を言いづらい」
「強く言いすぎて職場との関係が悪くなるのも怖い」
と感じる人は少なくありません。
そこで必要になるのが、まず自分が何にストレスを感じていたのかを整理することです。そのうえで、「何がつらかったのか」を「職場に何を調整してほしいのか」という具体的な希望へ変換し、職場と相談していきます。
さらに、このような話し合いでは、弁証法的行動療法(DBT)の対人関係スキルであるDEAR MAN・GIVE・FASTの考え方が参考になります。これらは復職支援専用に作られた方法ではありませんが、自分の希望を伝えながら、相手との関係と自分自身の双方を大切にするための整理の仕方として応用できます。DBTでは対人関係スキルが主要なスキル領域の一つとして位置づけられています。
この記事では、休職前のストレスを整理するところから、実際に職場へ環境調整を依頼するところまでを順番に解説します。
休職前のストレスを「対人関係」「仕事の量」「仕事の質」に分けて整理する
復職前の患者さんに、
「休職する前は、何が一番つらかったですか?」
と尋ねると、
「とにかく仕事がつらかったです」
という答えが返ってくることがあります。
もちろん、それ自体は自然な回答です。しかし、復職時の環境調整を考えるためには、もう一段階具体的に整理する必要があります。
「仕事がつらい」という状態をそのまま職場に伝えても、会社側は何を変えればよいのかが分からないからです。
職場のストレス因にはさまざまなものがありますが、整理するときには、まず
- 対人関係
- 仕事の量
- 仕事の質
の三つに分けて考えると分かりやすくなります。
厚生労働省の「職業性ストレス簡易調査票」でも、職場のストレス要因として、仕事の量的負担、質的負担、対人関係によるストレスなどが評価されています。この三分類ですべての職場ストレスを説明できるわけではありませんが、自分の負担を整理するための実用的な入り口になります。
対人関係がストレスになっていた場合
職場の対人関係には、たとえば次のような問題があります。
- 上司から強く叱責される
- 特定の同僚との関係が悪い
- ハラスメントを受けている
- 困ったときに相談できる人がいない
- 職場内で孤立している
- 上司に相談しても十分に対応してもらえない
仕事そのものには対応できていても、「この人と毎日関わらなければならない」という状況だけで大きなストレスが生じることがあります。
対人関係が中心的な問題なのであれば、単に「残業を減らす」だけでは十分な環境調整にならない可能性があります。
仕事の量がストレスになっていた場合
仕事の量には、
- 長時間労働
- 多すぎる担当件数
- 人員不足
- 頻繁な休日出勤
- 短い納期
- 休憩を取れない勤務
- 一人では処理しきれない業務量
などがあります。
仕事内容そのものには適性があっても、それを処理する量が本人の限界を超えていれば負担になります。
この場合には、担当件数を減らす、残業を制限する、勤務時間を短縮するなど、量を減らす方向の環境調整が考えられます。
仕事の質がストレスになっていた場合
一方、
「残業はそれほど多くないのに、仕事がとてもつらかった」
という場合には、仕事の質について考えてみる必要があります。
たとえば、
- 経験したことのない業務を突然任された
- 自分の能力や適性と合わない仕事だった
- 責任が大きすぎた
- 苦手な業務ばかり担当していた
- 仕事の役割や責任範囲が曖昧だった
- 十分な教育を受けないまま高度な仕事を任された
といった状況です。
同じ8時間勤務でも、慣れている仕事を8時間する場合と、常に失敗への不安を感じながら経験のない仕事を8時間する場合では、心理的な負担は同じではありません。
実際には複数のストレスが重なっていることが多い
現実の職場では、三つの問題を完全に切り分けられないことも多くあります。
たとえば、
「異動によって経験のない仕事を任され、仕事量も多く、そのうえ相談できる上司との関係も悪かった」
というケースです。
この場合には、仕事の質・量・対人関係の三つが同時に関係しています。
そのため、まず休職前の状況を振り返り、
「どの時間帯がつらかったか」
「どの仕事をしているときに負担が強かったか」
「誰とのやり取りのあとに調子が悪くなったか」
「何が変われば働きやすかったと思うか」
と具体的に考えてみるとよいでしょう。
この作業の目的は、「自分が悪かったのか、会社が悪かったのか」を決めることではありません。
復職後に再び同じ状態にならないために、何を調整する必要があるのかを明らかにすることが目的です。
ストレス因を具体的な環境調整の希望に置き換え、復職前に職場へ相談する
ストレス因を整理したら、次はそれを具体的な環境調整の希望へ置き換えます。
ここには重要な違いがあります。
「上司との関係がつらかった」
というのは、本人が経験した問題です。
それに対して、
「復職後3か月程度は、その上司を直接の指揮命令者としない体制を相談したい」
というのは、職場が検討できる具体的な依頼です。
同じように、
「仕事が多すぎました」
だけではなく、
「復職後1か月は残業をせず、担当件数を通常の半分程度から始められないか相談したい」
とすれば、話し合う内容が明確になります。
仕事の質が問題なら、
「以前の仕事は自分には合いませんでした」
という表現から、
「復職直後は新規業務ではなく、以前経験していた業務を中心に担当し、体調をみながら段階的に業務範囲を広げたい」
という希望へ置き換えられます。
厚生労働省の職場復帰支援の手引きでも、復職支援プランでは、業務サポート、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、配置転換や勤務制度変更の必要性などを具体的に検討することが示されています。
「つらかったこと」と「希望する対応」を分ける
環境調整を考えるときには、紙に二つの欄を作ってみる方法もあります。
| 休職前につらかったこと | 希望する環境調整 |
|---|---|
| 特定の上司とのやり取りで強い緊張が続いた | 指揮命令系統の変更や接触頻度の調整を相談する |
| 毎日2〜3時間の残業が続いた | 復職直後は残業を制限する |
| 未経験業務を一人で担当していた | 当面は経験のある業務を中心とする |
| 業務量について相談する相手がいなかった | 定期的な上司との面談を設定する |
こうして整理すると、「会社に何となく配慮してほしい」という状態から、具体的な相談へ変えることができます。
希望には優先順位をつける
もう一つ大切なのは、すべての希望を同じ重要度として扱わないことです。
たとえば、
復職するためにどうしても必要な条件
と、
可能であればお願いしたい条件
を分けておきます。
「残業制限がなければ体調を維持できそうにない」という条件と、「できれば以前と同じ席に戻りたい」という希望では、重要度が異なるかもしれません。
優先順位が分かっていれば、会社から「すべては難しい」と言われたときにも、どこを守り、どこで調整できるのかを考えやすくなります。
可能であれば復職前に話し合う
環境調整は、復職して再び体調を崩してから始めるより、可能であれば復職前に相談しておく方がよいでしょう。
相談相手は会社によって異なります。直属の上司だけでなく、人事・労務担当者や産業医、保健師などが関わる場合もあります。
主治医からも、必要に応じて診断書や意見書に就業上の配慮について記載してもらえることがあります。
厚生労働省の手引きでも、主治医による復職可能の判断だけでなく、職場側が必要な情報を集め、産業保健スタッフや管理監督者、本人などが連携して具体的な復職支援プランを作成する流れが示されています。
つまり、復職とは「医師が復職可能と言ったので、翌日から元通り働く」というものではなく、どのような条件なら安全に仕事を再開できるかを職場と相談するプロセスでもあります。
環境調整を依頼するときは「DEAR MAN」を意識する
必要な環境調整が分かっても、それを職場へ伝えることは簡単ではありません。
ここで参考になるのが、弁証法的行動療法(DBT)の対人関係スキルであるDEAR MANです。
DEAR MANにはそれぞれの文字に意味がありますが、この記事では頭文字を覚えることを目的にはしません。
重要なのは、実際の職場で使える形にすると、次のような流れになることです。
事実を整理して伝える → 自分への影響を説明する → 希望を具体的に伝える → その調整の意味を説明する → 話の目的から逸れない → 落ち着いて話す → 必要なら代替案を探す
という流れです。
まず「事実」を伝える
たとえば、
「上司がひどい人だったので体調を崩しました」
と伝えると、相手は「本当に上司だけの問題なのか」「どちらに責任があるのか」という議論に入りやすくなります。
それよりも、
「異動後、担当案件が増え、平日は平均して2時間程度の残業が続いていました。また、業務について相談する機会が十分に取れない状態でした」
と伝える方が、事実関係を共有しやすくなります。
環境調整の目的は、過去の裁判をすることではありません。
まずは、復職後に何を変える必要があるのかを話し合うための共通認識をつくることが重要です。
次に、自分にどのような影響があったのかを伝える
事実を説明したら、
「その状態が続いてから眠れなくなり、朝に吐き気が出るようになりました」
「業務量が増えるにつれて集中力が低下し、最終的には出勤が難しくなりました」
など、自分に生じた変化を簡潔に伝えます。
ここでも、症状のすべてを詳細に説明する必要はありません。
職場との相談に必要な範囲で、どの環境がどのような負担につながったのかを説明します。
「配慮してください」ではなく、具体的に依頼する
次に重要なのが、希望を具体的にすることです。
「無理のない範囲でお願いします」
「できるだけストレスのない仕事にしてください」
という表現では、職場側も何をすればよいのか判断できません。
たとえば、
「復職後1か月は残業なしで勤務し、その後の体調をみて勤務時間を見直したいです」
「当面は新規案件ではなく、以前経験した業務を中心に担当することは可能でしょうか」
「直接の相談先を別の管理者にも設定していただくことは可能でしょうか」
と伝えれば、具体的に検討できます。
職場側にとっての意味も伝える
環境調整は、一方だけが利益を得るためのものではありません。
たとえば、
「最初から通常業務に戻るより、段階的に業務量を増やした方が、体調を安定させながら継続して勤務できると思っています」
と説明すれば、環境調整が安定した就労のための提案であることが伝わります。
話が逸れたら、目的へ戻る
話し合いの途中で、
「そもそもあのときあなたにも問題があったのではないか」
など、過去の出来事の評価へ話が広がることがあります。
必要な事実確認は行いつつも、今回の目的が復職条件の相談なのであれば、
「その点については私も振り返る必要があると思います。そのうえで、今日は復職後の業務量について相談したいです」
と、本来のテーマへ戻します。
DEAR MANについて詳しく知りたい場合は、関連記事「感情を整えるためのスキルとは|弁証法的行動療法に学ぶ4つのスキル」で、各要素について詳しく解説しています。
「GIVE」を意識して、職場との関係を壊さずに相談する
DEAR MANが「自分の希望を伝える」ことに重点を置いたスキルだとすれば、GIVEは相手との関係を維持することを意識したスキルです。
復職の環境調整では、この視点も重要です。
なぜなら、交渉相手は復職したあとも一緒に仕事をする人であることが多いからです。
自分の希望を明確に伝えることと、相手を敵として扱うことは同じではありません。
たとえば、
「会社のせいで病気になったのだから、これくらい対応して当然です」
と伝える場合と、
「休職前は業務量が大きな負担になっていました。再び長期間休職することを避けるためにも、復職直後の業務量について相談したいです」
と伝える場合では、同じ環境調整を求めていても、話し合いの進み方は変わる可能性があります。
相手の事情も聞く
職場から、
「その部署では残業を完全になくすことは難しい」
「現在の人員では担当者を変更できない」
と説明されることもあります。
このとき、すぐに「理解してもらえなかった」と判断するのではなく、まず理由を確認します。
そのうえで、
「残業を完全になくすのが難しいのであれば、週に何時間程度までなら調整できますか」
「担当者の変更が難しいのであれば、相談窓口をもう一人設定することはできますか」
と代替案を探します。
相手の事情を理解することは、自分の希望を撤回することではありません。
双方の制約を理解したうえで、実現可能な解決策を探すことが目的です。
「FAST」を意識して、自分に必要な条件まで手放さない
GIVEで相手との関係を意識する一方、今度は反対側の問題があります。
職場に迷惑をかけたという気持ちから、
「復職させてもらえるだけでありがたいので、何でも大丈夫です」
と言ってしまうケースです。
休職中には、同僚が自分の仕事を引き受けてくれたかもしれません。上司や人事担当者にも手続きをしてもらっています。
そのため、申し訳なさを感じること自体は自然です。
しかし、その罪悪感から、安定した復職のために本当に必要な条件まで諦める必要はありません。
たとえば医師から残業制限が必要と言われており、本人も長時間勤務によって症状が悪化していたと分かっているのであれば、
「皆さんに負担をかけてしまったので、復職初日から残業もできます」
と無理をすることが、職場にとってもよい結果になるとは限りません。
再び体調を崩して長期間休職することになれば、本人にも職場にも負担がかかります。
FASTで大切なのは、相手を攻撃することではなく、自分自身を必要以上に小さくしないことです。
必要なことについては理由を説明し、落ち着いて伝えます。
また、謝罪が必要な場面では謝って構いませんが、
「休職して本当に申し訳ありません」
「こんなお願いをして申し訳ありません」
「復職させていただくのに申し訳ありません」
と、希望を述べるたびに謝罪する必要はありません。
環境調整について相談すること自体は、安定した復職を目指すための行動です。
DEAR MAN・GIVE・FASTの詳しい構造については、関連記事「感情を整えるためのスキルとは|弁証法的行動療法に学ぶ4つのスキル」もあわせてご覧ください。
DEAR MAN・GIVE・FASTを使って、実際の依頼を組み立てる
ここまでの考え方を、実際の場面に当てはめてみます。
対人関係がストレス因だった場合
たとえば、直属の上司との関係が大きなストレスになっていた場合です。
単に、
「上司を変えてください」
と伝えるのではなく、
「休職前は、直属の上司とのやり取りのあとに強い緊張や不眠が続いていました。復職後に同じ状態を繰り返さないため、当面の相談窓口や指揮命令系統について調整できる余地があるか相談したいです」
という伝え方が考えられます。
完全な配置変更が難しい場合には、
「日常的な業務報告は別の管理者を経由する」
「一対一ではなく複数人で面談する」
「定期的に人事担当者へ相談できるようにする」
など、目的を達成する別の方法もあります。
仕事の量がストレス因だった場合
仕事量が問題だった場合には、
「復職前は残業が続き、睡眠時間が短くなった時期から症状が悪化しました。主治医とも相談し、復職直後は残業を避ける方がよいと考えています。まず1か月程度は定時勤務とし、その後の体調を確認して業務量を見直すことは可能でしょうか」
などと伝えます。
「仕事を減らしてください」ではなく、どの程度・どの期間・どのようにを示すことがポイントです。
仕事の質がストレス因だった場合
未経験業務への異動が大きな負担だったのであれば、
「異動後は経験のない業務を単独で担当することが増え、それ以降、不安や不眠が強くなりました。復職直後は以前経験していた業務を中心に担当し、体調が安定した段階で新しい業務を増やしていくことは可能でしょうか」
という形にできます。
「この仕事は絶対にしたくありません」と伝えるよりも、段階的な方法を提案することで職場側も検討しやすくなる場合があります。
複数の問題があれば、優先順位をつける
対人関係も、業務量も、仕事内容も問題だった場合、すべてを一度に解決しようとすると話し合いが複雑になります。
その場合には、
「復職するために最低限必要なのは何か」
から考えます。
たとえば、
- 当面の残業制限は必須
- 担当業務の変更も希望したい
- 座席変更は可能ならお願いしたい
というように、自分の中で優先順位を決めておきます。
これによって、会社側からすべての希望には対応できないと言われた場合にも、交渉しやすくなります。
DEAR MAN・GIVE・FASTは、希望を必ず通すためのテクニックではありません。
自分が必要としていることを明確にし、相手にも分かる形で伝え、双方にとって実行可能な着地点を探すためのスキルとして利用するのがよいでしょう。
職場にも対応できる範囲には限界がある
環境調整について考えるうえで、もう一つ重要な点があります。
希望を適切に伝えれば、会社がすべて実現してくれるとは限りません。
職場には職場側の事情があります。
たとえば小規模な部署であれば、特定の上司との接触を完全になくすことが物理的に難しいかもしれません。
専門職であれば、仕事内容そのものを大きく変更できない場合もあります。
人員が限られていれば、担当業務を長期間ほかの社員へ移すことが難しい場合もあります。
厚生労働省の職場復帰支援の考え方でも、復職支援プランでは業務量や業務内容の変更だけでなく、配置転換や勤務制度変更の可否や必要性を検討し、職場側の支援準備状況も含めて総合的に判断するとされています。最終的な職場復帰の決定も、主治医の意見だけでなく、必要な情報を踏まえて事業者が行う流れになっています。
そのため、主治医から、
「残業を避けることが望ましい」
「業務負荷を軽減することが望ましい」
といった意見が出ていても、具体的にどのような形で実現するかについては、職場との調整が必要になります。
「方法」ではなく「目的」に戻って考える
希望していた方法が難しいと言われたときには、
「そもそも何を防ぐための環境調整だったのか」
に戻って考えてみます。
たとえば、
「上司を変更してほしい」
という希望の目的が、
「特定の上司との一対一のやり取りによる強い緊張を減らしたい」
ということであれば、上司そのものを変更できなくても、
- 面談に第三者が同席する
- 日常的な相談先を追加する
- 接触する場面を限定する
- 人事担当者との定期面談を設ける
という代替案があるかもしれません。
「配置転換」ができなくても、仕事内容の一部を変更できるかもしれません。
「残業を完全になくす」ことが難しくても、時間外勤務の上限を設定できるかもしれません。
環境調整とは、最初に思いついた希望をそのまま実現することだけではありません。
自分が安定して働くために必要な目的を保ちながら、職場で実行可能な方法を探すことでもあります。
必要な条件と職場の条件がどうしても合わないこともある
一方で、どのような代替案を考えても、自分が健康を保つために必要な条件と、職場が提供できる環境が合わない場合もあります。
この場合に、
「会社が対応してくれないのだから、自分が我慢するしかない」
と結論づける必要はありません。
主治医や産業医、人事担当者などと相談しながら、復職時期を延ばすことや、別の働き方を検討する必要が生じることもあります。
職場との交渉には限界があることと、自分の健康を守る必要がなくなることは別の問題です。
復職時の環境調整は、一度決めたら終わりではない
復職前に十分な話し合いをしても、実際に働き始めて初めて分かることがあります。
復職直後の2週間は問題なくても、担当業務が増え始めた1か月後から疲労が強くなることもあります。
反対に、復職前には大きな不安を感じていた仕事でも、実際に始めてみると思ったより負担が少ない場合もあります。
そのため、環境調整は一度決めたら固定するものではありません。
厚生労働省も、職場復帰後には勤務状況や業務遂行能力、疾患の再燃・再発、新しい問題の発生などを確認し、必要に応じて職場復帰支援プランや就業上の配慮を見直すことを示しています。2026年時点の治療と仕事の両立支援に関する案内でも、治療や業務の状況によって必要な措置・配慮の内容や期間は変わりうるため、フォローアップと見直しが重要とされています。
復職後には、
- 睡眠時間が保てているか
- 朝、以前のような強い不安が出ていないか
- 帰宅後に何もできないほど疲弊していないか
- 休日だけでは疲労が回復しなくなっていないか
- 欠勤や遅刻が増えていないか
- 抑うつや不安が再び強くなっていないか
などを確認します。
そして、問題があれば早めに相談します。
「一度お願いしたのだから、もう変更を頼んではいけない」
と考える必要はありません。
逆に、体調が安定していれば、業務量を少しずつ通常の水準へ戻していくこともできます。
復職支援では、働けるか・働けないかの二択ではなく、回復に合わせて仕事の負荷を調整していくという考え方が重要です。
復職では「元通りに戻る」より、再び働き続けられる環境をつくることが重要である
休職すると、
「早く以前と同じように働かなければ」
と考える人がいます。
しかし、休職前とまったく同じ状態へ戻ることが、本当に望ましいとは限りません。
もし休職前の環境そのものが不調につながっていたのであれば、必要なのは単なる「元通り」ではなく、同じ問題を繰り返しにくい働き方をつくることです。
そのためには、まず自分が何をストレスに感じていたのかを整理します。
対人関係だったのか。
仕事の量だったのか。
仕事の質だったのか。
あるいは、それらが複数重なっていたのか。
次に、「つらかった」という経験を、「復職後に何を調整すればよいのか」という具体的な提案へ変えていきます。
そして職場へ伝えるときには、
自分の希望を明確に伝えること
相手との関係を保つこと
必要な条件まで諦めないこと
の三つのバランスが重要になります。
DBTのDEAR MAN・GIVE・FASTは、この三つを整理するための一つの方法です。
ただし、環境調整は自分一人で決められるものではありません。職場にも対応できる範囲があります。
だからこそ、
「要求を通す」ことではなく、「自分が安定して働くために必要なことと、職場が実際にできることの接点を探す」こと
が、復職時の環境調整では重要になります。
そして、その条件は一度決めて終わりではありません。実際に働きながら状態を確認し、必要に応じて調整し直していきます。
復職の目標は、一日でも早く休職前と同じ働き方へ戻ることではありません。
再び働き始め、その状態を無理なく続けられることが、本当の意味での職場復帰といえるでしょう。
関連記事
- 感情を整えるためのスキルとは|弁証法的行動療法に学ぶ4つのスキル
- DEAR MAN・GIVE・FASTを含む、DBTの対人関係スキルについて詳しく解説しています。
参考文献
- 厚生労働省. 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き―メンタルヘルス対策における職場復帰支援―.
- 厚生労働省. 治療と就業の両立支援指針. 令和8年2月改訂.
- 厚生労働省「こころの耳」. 職業性ストレス簡易調査票.
- Inoue A, Kawakami N, Shimomitsu T, Tsutsumi A, Haratani T, Yoshikawa T, Shimazu A, Odagiri Y. Development of a short questionnaire to measure an extended set of job demands, job resources, and positive health outcomes: The New Brief Job Stress Questionnaire. Industrial Health. 52(3):175–189. 2014.
- Linehan MM. DBT Skills Training Manual. Revised Edition. Guilford Press. 2025.