はじめに|うつ病はどのくらい治り、どのくらい再発するのか

うつ病と診断されたとき、「どのくらいの人が治るのだろう」「一度良くなっても、また再発するのだろうか」と疑問に思う方は少なくありません。

こうした疑問について、医学研究では「寛解率」や「再発率」という数字を用いて調べてきました。

たとえば、うつ病治療について最も有名な大規模研究の一つであるSTAR*Dでは、最初の抗うつ薬治療によって寛解した人は36.8%でした。日本で約2,000人を対象として行われたSUN☺D研究のデータでも、9週時点で37.0%が寛解していました。ただし、この二つは研究デザインが異なるため、数字を単純に比較することはできません。

一方、うつ病は一度寛解すれば、それで必ず終わる病気でもありません。

2025年に報告されたDesai Boströmらの大規模研究では、初めて大うつ病エピソードを経験し、少なくとも3か月間寛解した18〜40歳の成人において、5年間の再発率は49.0%でした。つまり、この集団では約半数が5年間に再発した一方、約半数は再発しなかったことになります。

ただし、「寛解率37%」「再発率49%」といった数字を、そのまま一人ひとりの患者さんの未来に当てはめることはできません。

研究によって、対象となる患者さん、治療方法、寛解や再発の定義、観察期間などが異なるからです。また、同じうつ病でも、初めて発症した人と何度も再発している人では、その後の経過は異なります。

この記事では、STAR*D、SUN☺D、Desai Boströmらの2025年研究などの大規模研究を中心に、うつ病はどのくらい寛解するのか、寛解したあとどのくらい再発するのか、そして再発を防ぐために何ができるのかを、具体的な数字とともに解説します。


うつ病の「治る」とは何を意味するのか

「うつ病は何%くらい治りますか」という質問に答えるためには、最初に「治る」という言葉の意味を整理する必要があります。

日常会話では「良くなった」「治った」「元通りになった」といった言葉を同じような意味で使いますが、うつ病の研究では、症状が改善していく過程をいくつかの段階に分けて考えます。

反応・寛解・回復の違い

代表的なのが、**反応(response)・寛解(remission)・回復(recovery)**という考え方です。

用語おおまかな意味
反応(response)治療前と比べて、うつ症状が大きく改善した状態
寛解(remission)うつ症状がほとんどない、または非常に軽くなった状態
回復(recovery)寛解した状態が一定期間安定して続いている状態

研究では「反応」を、うつ症状を測定する評価尺度の点数が治療前から50%以上低下した状態と定義することがよくあります。

たとえば、重いうつ症状が治療によって半分まで減ったとします。これは大きな改善ですので「反応した」と評価できますが、不眠、疲労感、楽しめなさなどがまだかなり残っている可能性があります。

これに対して寛解とは、症状がさらに改善し、ほとんど症状がない、あるいは非常に軽い状態まで到達したことを意味します。

ただし、どの点数以下を寛解とするかは、HAM-D、QIDS、PHQ-9など、研究で使用する評価尺度によって異なります。そのため、異なる研究の「寛解率」を比較するときには、どの尺度と基準を使った数字なのかにも注意する必要があります。STAR*Dでも、使用する評価尺度によって寛解率の算出方法が異なりました。

再燃と再発の違い

症状が良くなった後に再びうつ状態になる場合にも、研究上は異なる言葉が使われます。

一般に、十分な回復に至る前に同じエピソードの症状が再び悪化することを再燃(relapse)、いったん回復した後に新たな大うつ病エピソードが生じることを**再発(recurrence)**と呼びます。

実際には研究によって定義が異なり、日本語でも「再燃」と「再発」が厳密に区別されず使われることがあります。そのためこの記事でも、個々の研究を紹介するときには、その研究がどのような状態を対象にした数字なのかをあわせて説明します。

うつ病治療では「寛解」が重要な目標となる

うつ病治療では、「少し楽になった」という段階で治療を終えるのではなく、できるだけ寛解まで到達することが重要です。

これは単に評価尺度の点数を下げることが目的なのではありません。

「眠れるようになったが、何をしても楽しくない」

「仕事には戻れたが、以前のように集中できない」

「気分は少し良くなったが、疲労感が強く残っている」

というように、一部の症状が残った状態では、その後の生活にも影響します。また、後述するように、症状が残っていることは再発リスクを考えるうえでも重要です。

つまり、うつ病の治療では、症状を減らすことから、症状がほとんどない寛解へ、さらにその状態を維持して生活を取り戻すことへと目標を進めていく必要があります。


最初の抗うつ薬治療で寛解する人は4割弱

うつ病に抗うつ薬を使えば、ほとんどの人が最初の薬で寛解するのでしょうか。

大規模研究を見ると、必ずしもそうではありません。

この点について非常に重要な情報をもたらした研究が、米国のSTAR*Dと日本のSUN☺Dです。

STAR*D|約4,000人を対象とした米国の大規模研究

STAR*Dは「Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression」の略称で、米国国立精神衛生研究所の支援を受けて行われた大規模研究です。

一般的な抗うつ薬の治験では、併存疾患がある人などを除外し、比較的条件のそろった患者さんを対象とすることがあります。

一方、STAR*Dは実際の診療に近い患者さんを幅広く対象とし、最初の治療で十分な改善が得られなかった場合には第2段階、第3段階、第4段階へと治療を進めていきました。

そのため、20年以上前に開始された研究ではありますが、**「通常のうつ病診療で、一つの治療が効かなかった後にどうなるのか」**を考える際の代表的な研究として、現在でも頻繁に引用されています。

STAR*Dでは最初の抗うつ薬による寛解率は36.8%だった

STAR*Dの第1段階では、うつ病患者にSSRIの一つであるシタロプラムを投与しました。

患者さん自身が回答するQIDS-SRという評価尺度を用いた場合、第1段階の寛解率は、

36.8%

でした。

おおまかにいえば、最初の抗うつ薬で寛解したのは3人に1人強という結果です。

これは逆に、6割以上の人では最初の抗うつ薬だけでは寛解に至らなかったことを意味します。

「抗うつ薬を飲めば、多くの人が最初の一剤ですぐ元通りになる」というイメージとは少し異なる結果です。

SUN☺Dとは|約2,000人を対象とした日本の大規模研究

日本からも、うつ病の薬物療法について重要な大規模研究が報告されています。

それがSUN☺D(Strategic Use of New generation antidepressants for Depression)研究です。

SUN☺Dは日本の48施設で行われた実用的な多施設共同研究で、未治療の大うつ病エピソードを持つ2,011人が参加しました。

まずセルトラリンによる治療を開始し、その後、3週時点で寛解していない患者さんについて、セルトラリンを継続する、ミルタザピンを追加する、ミルタザピンへ切り替える、という治療戦略を比較しました。

STAR*Dが米国で行われた研究であるのに対し、SUN☺Dは日本の実臨床に近い環境で行われた大規模研究である点が重要です。

SUN☺Dでも9週時点の寛解率は37.0%だった

SUN☺Dのデータを用いた解析では、9週時点で、

37.0%

が寛解していました。95%信頼区間は34.8〜39.1%でした。

STAR*Dの36.8%と非常によく似た数字です。

ただし、この二つを「米国でも日本でも最初の抗うつ薬の寛解率は37%だった」と単純にまとめるのは正確ではありません。

STAR*Dの36.8%は第1段階のシタロプラム治療による寛解率です。一方、SUN☺Dでは3週時点で寛解していなければ、その後に薬の継続・追加・切り替えが行われており、37.0%はそうした治療経過を含む9週時点の数字です。

研究期間や寛解の判定方法も同じではありません。

大規模研究からみると、最初の治療で寛解するのはおおむね4割弱

それでも、STAR*DとSUN☺Dの結果から重要なメッセージを読み取ることができます。

それは、うつ病治療では最初の治療だけで全員が寛解するわけではないということです。

実臨床に近い大規模研究では、急性期の比較的早い段階で寛解に到達する人は、おおむね4割前後にとどまります。

しかし、これは「6割の人は治らない」という意味ではありません。

うつ病治療では、最初の治療で十分な改善が得られなければ、治療を見直し、その次の治療へ進んでいくからです。


最初の治療で寛解しなかった場合、その後どのくらい改善するのか

最初の抗うつ薬で寛解しなかったとき、

「この薬が効かなかったのだから、自分のうつ病は治らないのではないか」

と不安になることがあります。

しかし、最初の一剤への反応だけで、その後の治療可能性が決まるわけではありません。

STAR*Dにみる第1〜第4段階の寛解率

STAR*Dでは、一つの治療で十分な改善が得られなかった場合に、薬剤の切り替えや別の治療の追加などを行いました。

QIDS-SRによる各段階の寛解率は次の通りでした。

治療段階寛解率
第1段階36.8%
第2段階30.6%
第3段階13.7%
第4段階13.0%

ここで重要なのは、それぞれの数字の分母が違うということです。

第2段階の30.6%とは、STAR*Dに最初に参加した全員の30.6%ではありません。第1段階で寛解せず、第2段階の治療に進んだ人の中での寛解率です。

第2段階以降でも寛解する人はいる

第1段階で寛解しなかった人の中にも、第2段階の治療によって寛解した人がいました。

つまり、一つの抗うつ薬が十分に効かなかったからといって、他の治療も効かないとは限りません。

薬を別の抗うつ薬へ変更する方法もあれば、現在の薬に別の薬を追加する方法もあります。薬物療法だけではなく、精神療法やその他の治療を組み合わせることもあります。

治療が十分に効かない場合には、そもそもうつ病という診断が適切か、双極症や不安症などの併存がないか、薬を十分な量・期間使用できていたかなどを再評価することも重要です。

治療段階が進むほど、一つの治療による寛解率は低下する

一方で、STAR*Dでは、治療段階が進むほど一回の治療による寛解率が低下しました。

第1段階では36.8%、第2段階では30.6%でしたが、第3段階では13.7%、第4段階では13.0%でした。

つまり、複数の適切な治療を行っても改善しない場合には、その後の治療が難しくなっていく傾向があります。

従来、このような状態は**治療抵抗性うつ病(Treatment-Resistant Depression:TRD)という概念で捉えられてきました。現在では、薬物療法への反応だけでなく、症状や社会機能、副作用、再発などをより広く捉える難治性抑うつ(Difficult-to-Treat Depression:DTD)**という考え方も用いられるようになっています。日本うつ病学会の「うつ病診療ガイドライン2025」でも、治療段階や個別性を踏まえた診療が重視されています。

SUN☺Dでも初期治療で十分に改善しなかった場合の次の治療が検討された

SUN☺Dでも、「最初の治療で十分に良くならなかったらどうするか」が研究されました。

3週間のセルトラリン治療で寛解しなかった患者さんを対象に、

  • セルトラリンを継続する
  • セルトラリンにミルタザピンを追加する
  • セルトラリンからミルタザピンへ切り替える

という方法が比較されました。

その結果、追加や切り替えによって9週時点の抑うつ症状に小さな改善がみられました。ただし、差の大きさは限定的であり、「この方法に変えれば必ず寛解できる」という結果ではありませんでした。

「最初の薬が効かなかった=治らない」ではない

STAR*DとSUN☺Dから共通して読み取れるのは、うつ病治療を一回の薬の成否だけで判断してはいけないということです。

一方で、薬を次々に変更すれば必ず寛解する、と考えるのも適切ではありません。

最初の治療が十分に効かなかったときには、

診断を確認する → 治療内容を評価する → 次の治療を選ぶ → 効果を再評価する

という過程を繰り返していくことが重要です。


STAR*Dでは治療を重ねることで計約67%が寛解したと報告された

STAR*Dについて非常によく引用される数字があります。

それが、**「4段階の治療を通じた累積寛解率は約67%だった」**という結果です。

この数字だけを見ると、「最初の薬で治らなくても、4回治療を続ければ3人に2人は治る」と考えたくなるかもしれません。

しかし、この67%を理解するには注意が必要です。

原著論文で報告された「累積寛解率67%」とは

2006年に報告されたSTAR*Dの主要論文では、第1段階から第4段階まで治療を進めた場合の**累積寛解率がおよそ67%**と報告されました。

この結果は、「一つの治療で寛解しなくても、その後の治療によって寛解する可能性がある」という希望を示す重要な知見でした。

しかし、研究では治療段階が進むにつれて脱落者も増えていきます。

全員が同じように第1段階から第4段階まで治療を受けたわけではありません。

67%は「全参加者の67%で実際に寛解が確認された」という意味ではない

ここがSTAR*Dを読むうえで特に重要です。

67%という数字は、単純に、

「最初に参加した患者さんを全員並べて、その67%で寛解が確認された」

という数字ではありません。

各治療段階の寛解率をもとに累積的に推計した数字であり、途中で治療から離れた人をどう扱うかによって結果が変わります。

そのため、この67%をそのまま「うつ病患者が治療によって治る確率」と表現することには慎重さが必要です。

2023年の再解析では累積寛解率35%と報告された

2023年、PigottらはSTAR*Dの患者レベルデータを、研究開始時に定められていたプロトコルに沿う形で再解析しました。

その解析では、プロトコルで規定されていたHAM-Dを用いて寛解を判定した場合、4段階までの累積寛解率は、

35.0%

と報告されました。

67%と比べると、非常に大きな違いです。

ただし、この35%も「これこそが唯一正しい寛解率」と単純に考えるべきではありません。研究から離脱した人を非寛解として扱う方法など、どのような統計的な問いを設定するかによって結果は変わるからです。

2024年の別の解析では1年間の累積寛解率87.5%と推定された

さらに2024年、SakuraiらはSTAR*Dのデータを生存時間解析という方法で再評価しました。

この解析では、時間の経過と脱落を統計的に扱い、治療開始からの累積寛解率を推定しています。

その結果、

  • 90日:53.8%
  • 180日:74.5%
  • 1年:87.5%

と推定されました。

これは67%よりさらに高い数字です。

寛解率は定義・脱落者の扱い・解析方法によって大きく変わる

「67%」「35%」「87.5%」。

同じSTAR*Dのデータをもとにしているのに、非常に異なる数字が出ています。

しかし、これらは必ずしも「どれか一つが正しく、残りは間違い」という関係ではありません。

それぞれ、

  • どの評価尺度で寛解を定義するのか
  • どの患者さんを解析対象に含めるのか
  • 途中で研究を離脱した人をどう扱うのか
  • 一定期間内に寛解する確率を推定するのか
  • 実際に寛解が確認できた割合を重視するのか

といった統計的な問いが異なっています。

一つの数字だけで「うつ病の治る確率」を決めることはできない

STAR*Dの議論が教えてくれるのは、寛解率の数字そのもの以上に、医学研究の数字には前提条件があるということです。

「うつ病は67%治る」

「実際には35%しか治らない」

「1年間治療すれば87.5%が寛解する」

というように、一つの数字だけを切り取ると、まったく違う印象になります。

より妥当な理解は、

最初の治療だけで寛解する人は一部である。しかし治療を継続・変更することで、その後に寛解する人もいる。一方、複数の治療が必要になるほど治療は難しくなり、途中で治療から離れる人もいる

というものです。


うつ病はどのくらい再発するのか

寛解率と同じくらい重要なのが、一度良くなった後にどのくらい再発するのかという問題です。

再発率については古くからさまざまな数字が引用されてきましたが、今回は比較的新しい大規模研究であるDesai Boströmらの2025年研究を中心に見ていきます。

2025年のDesai Boströmらの大規模研究

Desai Boströmらは、スウェーデンのStockholm MDD Cohortを用いて、初めて大うつ病エピソードを経験した人のその後を調べました。

このデータベースには、プライマリケアや専門医療、薬剤処方、精神療法、入院治療などの情報が含まれています。

研究では、初回大うつ病エピソードを経験した9,124人が対象となり、思春期群と成人群が比較されました。このうち少なくとも90日間の寛解が確認された人について5年間の再発が分析され、成人群では3,628人が解析対象となりました。成人は18〜40歳でした。

この年齢範囲は重要です。

したがって、この研究の結果を「すべての成人うつ病患者の再発率」とそのまま一般化することはできません。

初回のうつ病から回復した成人でも5年間の再発率は49.0%だった

成人群における5年間の再発率は、

49.0%

でした。

つまり、初めてうつ病を経験し、少なくとも3か月間寛解した18〜40歳の成人でも、5年間でおよそ半数が新たなうつ病エピソードを経験していたことになります。

「初回のうつ病であれば、一度治ればほとんど再発しない」というわけではないことが分かります。

再発の多くはどの時期に起こるのか

Desai Boströmらの研究では、成人群で寛解から再発までの期間の中央値は326日でした。

つまり、再発した人では、およそ1年前後という比較的早い時期に再発している人も多かったことになります。

ただし、これは「326日後に再発する」という意味ではありません。

中央値とは、再発までの期間を短い順に並べたときの中央の値です。数か月で再発する人もいれば、数年間安定してから再発する人もいます。

また、再発リスクは時間とともに一定ではありません。寛解直後から回復期にかけては、特に状態を慎重にみる必要があります。

初回エピソードでも「一度治れば二度と再発しない」とは限らない

この研究の大きな意義は、初回エピソードに対象を絞っていることです。

何度も再発している患者さんを含めれば、当然ながら再発率は高くなりやすくなります。

それでも、初回エピソードから寛解した人だけを対象にして5年間で49.0%という数字が得られたことは、うつ病の治療では「良くすること」だけでなく、「良くなった状態を維持すること」も重要であることを示しています。

一方で、約半数は5年間再発しなかった

49%という数字は、不安を感じさせるかもしれません。

しかし、同じ数字は別の方向から見ることもできます。

約51%は5年間に再発していなかったということです。

「うつ病は半数が再発する」という情報から、「うつ病になれば一生繰り返す」と結論づけることはできません。

再発する人もいれば、長期間再発せずに生活する人もいます。


うつ病の再発リスクを高める要因

うつ病の再発率は、すべての人で同じではありません。

診療では、研究で報告された平均的な再発率だけではなく、その人がどのような再発リスクを持っているかを考えます。

過去にうつ病を繰り返している

最も重要な情報の一つが、これまでのうつ病エピソードの回数です。

過去に繰り返しうつ病を経験している人では、初回エピソードの人より、その後も再発する可能性を慎重に考える必要があります。

これは「回数が増えれば必ず再発する」という意味ではありませんが、維持療法をどの程度続けるかを考える際の重要な材料になります。

うつ症状が完全には消えず、残遺症状がある

治療によってかなり改善していても、

  • 睡眠がまだ不安定
  • 疲れやすい
  • 何をしても十分に楽しめない
  • 集中力が戻っていない
  • 軽い抑うつ気分が残っている

といった症状が続くことがあります。

こうした症状を残遺症状と呼びます。

残遺症状や過去のうつ病歴は、再発リスクを考える際の主要な臨床情報とされています。

今回のうつ病が重症または長期化している

今回のエピソードが非常に重かった場合や、寛解するまでに長期間を要した場合にも、その後の経過を慎重にみる必要があります。

特に、自殺リスクが高かった、精神病症状を伴っていた、社会生活が大きく損なわれていたといった場合には、症状が改善した直後に治療を終了するのではなく、その後の安定を確認することが重要です。

精神疾患や身体疾患を併存している

うつ病だけでなく、不安症、物質使用症など別の精神疾患が併存している場合があります。

慢性疼痛や身体疾患などが抑うつ状態と相互に影響していることもあります。

このような場合、うつ症状だけを治療しても、その背景にある問題が続いていれば経過が複雑になる可能性があります。

発症に関係したストレスや環境要因が続いている

うつ病から寛解しても、発症時に大きな負担となっていた状況が変わっていないことがあります。

長時間労働、職場の対人関係、介護負担、家族関係、経済的な問題などです。

もちろん、ストレスがあれば必ずうつ病が再発するわけではありません。

しかし、症状が改善した後にも強い負荷が持続している場合には、環境調整を含めて再発予防を考えることが重要です。

再発率はすべての人に同じではない

Desai Boströmらの研究の49%という数字も、個々の患者さんについて「あなたは49%の確率で再発します」と予測するものではありません。

研究で示される再発率は、あくまで一定の条件を満たした集団全体の平均的な経過です。

個人については、過去の経過、残遺症状、現在のストレス、併存疾患、治療内容などを総合的に考える必要があります。


再発を防ぐ第一歩は、十分な寛解を目指すこと

再発予防というと、「良くなった後に何をするか」に目が向きがちです。

しかし、実際には急性期治療でどこまで十分に改善できたかも重要です。

「少し良くなった」と「寛解」は異なる

仕事に戻れたからといって、必ずしも寛解しているとは限りません。

「以前の7割くらいには戻った」

「何とか仕事はできるが、休日は寝ているだけ」

「死にたい気持ちはなくなったが、何も楽しめない」

という状態では、まだ治療すべき症状が残っている可能性があります。

治療によって症状が半分になった「反応」と、ほとんど症状がなくなった「寛解」を区別する理由の一つがここにあります。

残遺症状があると再発しやすい

症状が残っている状態では、再び状態が悪化するリスクをより慎重に考えます。

そのため、治療では「以前より良くなったか」だけではなく、

どの症状がまだ残っているのか

を確認することが重要です。

不眠だけが残っているのか、快感消失が残っているのか、集中力が戻っていないのかによって、その後に行う治療も変わります。

症状だけでなく生活機能の回復も確認する

評価尺度で寛解していても、社会生活が完全には回復していないことがあります。

症状の改善と、仕事、人間関係、趣味、家庭生活などの回復は、必ずしも同じ速度では進みません。

そのため、治療目標は単なる「点数上の寛解」だけではなく、

その人がどのような生活を取り戻したいのか

まで含めて考える必要があります。

寛解後も治療を続け、良い状態を安定させる

寛解はゴールであると同時に、次の治療段階の始まりでもあります。

急性期治療で寛解した後には、その状態を安定させる継続期治療、さらに再発リスクに応じて良い状態を長期間保つ維持期治療について考えます。

日本うつ病学会の「うつ病診療ガイドライン2025」も、重症度だけでなく治療フェーズに応じた診療を重視する構成となっています。


抗うつ薬の継続によって再発率は下げられる

抗うつ薬によって寛解した患者さんから、

「もう良くなったのだから、薬をやめてもいいですか」

と質問されることがあります。

これは非常に重要な問題です。

実際の研究では、寛解後も効果のあった抗うつ薬を継続することで、再燃・再発率が低下することが示されています。

40研究・8,890人のメタ解析では20.9%対39.7%だった

Katoらは、抗うつ薬によって改善したうつ病患者を対象とした40件の研究、合計8,890人のデータをまとめて解析しました。

寛解後に同じ抗うつ薬を継続した群と、薬を中止してプラセボに切り替えた群を比較すると、再燃・再発率は、

寛解後の治療再燃・再発率
抗うつ薬を継続20.9%
抗うつ薬を中止しプラセボへ変更39.7%

でした。

ANTLER研究では継続群39%、中止群56%だった

長期間抗うつ薬を服用している人について調べた研究として、2021年のANTLER研究があります。

英国のプライマリケアで、少なくとも2年間抗うつ薬を服用しているか、過去に複数回のうつ病エピソードを経験しており、現在は薬をやめてもよいと感じている478人が参加しました。

52週間の再発率は、

  • 抗うつ薬継続群:39%
  • 抗うつ薬中止群:56%

でした。

中止群の方が明らかに再発しやすい結果でした。

薬を続けても再発する人、やめても再発しない人はいる

Katoらの研究では、薬を続けた人でも20.9%が再燃・再発しました。

ANTLER研究でも継続群の39%が再発しています。

つまり、抗うつ薬を続ければ再発を完全に防げるわけではありません。

一方、薬を中止した人の全員が再発したわけでもありません。

ANTLER研究では中止群の56%が再発しましたが、逆にいえば44%は52週間に再発していませんでした。

したがって、

「薬を飲み続ければ絶対に安心」

でも、

「薬をやめれば必ず再発する」

でもありません。

薬を継続することで集団としての再発リスクを下げられる、というのが研究から読み取れる内容です。

抗うつ薬をいつまで続けるかは個人の再発リスクによって異なる

抗うつ薬をいつまで続けるかについても、すべての患者さんに同じ答えがあるわけではありません。

初回エピソードで再発リスクが比較的低い人と、何度も再発している人では、維持療法の必要性が異なります。

日本うつ病学会は2025年12月に「うつ病診療ガイドライン2025」を公開しており、治療フェーズに応じた個別的な治療選択を重視しています。

薬を減らしたり中止したりする際には、再発だけでなく中断症状との区別も必要になります。そのため、自己判断で突然中止するのではなく、主治医と相談しながら進めることが重要です。


薬物療法以外にも再発を防ぐ方法がある

うつ病の再発予防は、抗うつ薬を続けることだけではありません。

その人の状態に応じて、精神療法、生活習慣への介入、環境調整などを組み合わせます。NICEのうつ病ガイドラインも、薬物療法だけでなく心理療法を含めた再発予防について扱っています。

精神療法を再発予防に活用する

認知行動療法などの精神療法では、うつ状態のときに繰り返しやすい思考や行動のパターンを整理します。

また、マインドフルネス認知療法など、再発を繰り返すうつ病の再発予防を目的として用いられる心理的アプローチもあります。

重要なのは、精神療法を単に「気持ちの持ち方を変える方法」と捉えないことです。

自分がどのような状況で調子を崩しやすいのか、悪循環がどのように始まるのかを理解し、早い段階で対応できるようにすることが目的の一つです。

睡眠や生活リズムを安定させる

睡眠の乱れは、うつ病の症状として現れることがあります。

回復後も睡眠が不安定な状態が続いている場合には、単に「寝不足」と考えず、ほかの症状とあわせて経過を確認することが重要です。

起床時間を大きく崩さない、昼夜逆転を避ける、日中の活動を少しずつ取り戻すなど、生活リズムの安定も回復を支える要素になります。

発症につながったストレスや環境を見直す

うつ病が良くなっても、発症前とまったく同じ環境に戻れば再び負担が大きくなる場合があります。

たとえば、長時間労働が発症に関係していたのであれば、薬だけを続けながら元の勤務量へ一気に戻すことが最適とは限りません。

患者さんによっては、仕事内容、勤務時間、人間関係、家庭内の負担などを見直すことが治療の一部になります。

復職時には職場環境を調整する

休職していた人では、復職できること自体が最終目標ではありません。

復職後に安定して勤務を継続できることが重要です。

勤務時間を段階的に増やす、残業を制限する、業務負荷を調整するなど、その人の状態と職場の状況に応じた調整が必要になる場合があります。

自分に特有の「再発の初期サイン」を知っておく

再発は、突然重いうつ状態になる形で始まるとは限りません。

人によって、

  • 朝起きにくくなる
  • 夜中に目が覚めるようになる
  • 休日に外出しなくなる
  • 好きだったことを楽しめなくなる
  • 人からの連絡を避けるようになる
  • 小さな失敗を何日も考え続ける
  • 仕事の能率が落ちる
  • イライラが増える

など、比較的早い段階に現れる変化があります。

これを自分の早期警告サインとして把握しておくことには意味があります。

初期サインが現れた段階で早めに治療を見直す

「完全に悪くなってから受診する」のではなく、

「以前うつ病になったときと同じ変化が始まっている」

と気づいた段階で相談できれば、早く対応できます。

休養を増やす、環境を調整する、診察の間隔を短くする、治療内容を再評価するなど、その段階でできる対策があります。

再発予防とは、再発を100%起こさないようにすることだけではありません。

再び調子を崩し始めたときに、重症化する前に気づいて対応することも重要な再発予防です。


まとめ

うつ病について「どのくらい治るのか」「どのくらい再発するのか」を考えるときには、まず反応・寛解・回復・再燃・再発という言葉の違いを理解する必要があります。

STAR*Dでは、最初の抗うつ薬による寛解率は36.8%でした。日本で約2,000人を対象として行われたSUN☺D研究のデータでも9週時点の寛解率は37.0%でした。ただし、SUN☺Dでは途中から薬剤の継続・追加・切り替えが行われているため、両者は同じ条件の数字ではありません。

STAR*Dでは、第2段階でも30.6%が寛解しましたが、第3段階では13.7%、第4段階では13.0%と、一つの治療による寛解率は治療段階が進むほど低下しました。つまり、最初の薬で寛解しなくても次の治療で改善する可能性がある一方、複数の治療が必要になるほど治療は難しくなる傾向があります。

STAR*Dの原著では、治療を重ねた場合の累積寛解率が約67%と報告されました。しかし、2023年の再解析では35.0%、2024年に生存時間解析を用いた別の再評価では1年間の累積寛解率87.5%と推定されています。これは、寛解の定義、研究から離脱した人の扱い、統計的方法によって「累積寛解率」という数字が大きく変わりうることを示しています。

再発については、2025年のDesai Boströmらの研究が参考になります。初めて大うつ病エピソードを経験し、少なくとも3か月寛解した18〜40歳の成人では、5年間の再発率は49.0%でした。つまり、この集団では約半数が再発した一方、約半数は5年間再発しませんでした。

また、再発リスクを下げることは可能です。40研究、8,890人をまとめたメタ解析では、効果のあった抗うつ薬を寛解後も継続した場合の再燃・再発率は20.9%、プラセボへ切り替えた場合は39.7%でした。ANTLER研究でも、1年間の再発率は抗うつ薬継続群39%、中止群56%でした。

こうした数字から分かるのは、うつ病が「一度薬を飲めば治って終わる病気」でも、「一度なれば必ず再発する病気」でもないということです。

重要なのは、一度の治療結果だけで判断せず、まず十分な寛解を目指すこと。そして寛解した後には、その状態をできるだけ長く維持することです。

寛解率や再発率は、自分の未来を決める数字ではありません。

研究から得られたデータを参考にしながら、その人自身のこれまでの経過、残っている症状、再発リスク、生活環境、治療への希望を踏まえて、長期的な治療方針を考えていくことが大切です。


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参考文献

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