はじめに

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は、腹痛とともに下痢や便秘などの便通異常を繰り返す病気です。検査で大きな異常が見つからないにもかかわらず症状が続き、通勤・通学中に急にトイレへ行きたくなる、外食や旅行を避けるようになるなど、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

IBSには、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型という4つのタイプがあります。また、どのタイプにも共通して行える治療と、それぞれのタイプに応じて選択する治療があります。

この記事では、日本消化器病学会の『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)』を中心に、IBSの診断方法と、日本で行われている治療についてわかりやすく解説します。

過敏性腸症候群(IBS)とは?

IBSは、腹痛と便通異常を繰り返す疾患です。以前は「検査をしても異常が見つからない病気」と説明されることが多くありましたが、これは「腸に何の異常もない」という意味ではありません。

現在では、腸の動き、腸から脳へ伝わる感覚、腸内細菌、免疫機能、ストレス反応など、さまざまな要因が関係していると考えられています。特に重要なのが、脳と腸が互いに情報をやり取りする脳腸相関です。ストレスによって腹痛や下痢が強くなることがある一方で、腸の症状が続くことで不安が強くなることもあります。つまり、脳から腸への一方向の影響ではなく、両者が相互に影響しています。

そのため、IBSを「ストレスのせい」「気の持ちよう」と捉えるのは適切ではありません。消化管の運動や感覚に実際の変化が生じ、それに心理社会的な要因も加わって症状が形成される病気として理解する必要があります。

過敏性腸症候群はどのように診断する?

IBSの診断では、症状だけでなく、他の消化器疾患が隠れていないかを確認することが重要です。

現在の診療ガイドラインでは、国際的な診断基準であるRome IV基準が用いられています。Rome IVでは、最近3か月間に平均して週1日以上の腹痛があり、その腹痛について、次の3項目のうち2項目以上を満たすことが基準となります。

  • 排便と関連している
  • 排便回数の変化と関連している
  • 便の形状・外観の変化と関連している

さらに、これらの基準を最近3か月間満たしており、症状そのものは診断の6か月以上前から始まっていることが求められます。

ただし、Rome IV基準を満たしたからといって、直ちにIBSと診断するわけではありません。大腸がん、炎症性腸疾患、感染症など、同じような症状を生じる病気を適切に除外する必要があります。

大腸内視鏡検査は全員に必要ではありません

IBSが疑われるすべての人に、大腸内視鏡検査が必須というわけではありません。

日本の診療ガイドラインでは、発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期しない3kg以上の体重減少、腹部腫瘤などの異常な身体所見を「警告症状・徴候」としています。これらの症状が認められる場合には、大腸内視鏡検査の必要性が高まります。また、年齢や大腸の器質的疾患の既往歴・家族歴なども考慮します。

血液検査、炎症反応、便潜血検査などで異常を認める場合も、より詳しい検査が必要です。特に便潜血陽性、貧血、低蛋白血症、炎症反応陽性などがあれば、大腸内視鏡検査などによって器質的疾患を調べます。

つまりIBSの診断では、「内視鏡で異常がなかったからIBS」と単純に決めるのではなく、症状、年齢、既往歴、診察所見、血液・便検査などを総合して、必要な人には内視鏡などの検査を追加します。

IBSは便の状態によって4つのタイプに分けられる

IBSの治療を考えるうえで重要なのが、便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)という4つの分類です。

分類には、便の硬さを7段階に分けるブリストル便形状尺度が使われます。タイプ1・2は硬い便、タイプ3~5はおおむね正常範囲、タイプ6・7は軟便・水様便です。

分類便の特徴
便秘型(IBS-C)硬便・兎糞状便(タイプ1・2)が25%を超え、軟便・水様便(タイプ6・7)が25%未満
下痢型(IBS-D)軟便・水様便が25%を超え、硬便・兎糞状便が25%未満
混合型(IBS-M)硬便・兎糞状便と軟便・水様便の両方が25%を超える
分類不能型(IBS-U)IBSの診断は満たすものの、上記3分類のいずれにも該当しない

この分類は、止痢薬や下剤を使用していないときの便を基準として判断します。また、IBSのタイプは必ずしも固定されているわけではありません。ある時期は便秘が中心で、その後下痢が中心になることもあります。

IBSの全ての型に共通して行える治療

日本の診療ガイドラインでは、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型のいずれであっても、まず食事や生活習慣について確認します。そのうえで、病型を問わず使用できる薬もあります。

食事を見直す

IBSでは、特定の食品を食べると症状が悪化すると感じる人が少なくありません。ただし、すべての人が同じ食品を避ける必要があるわけではありません。

まず重要なのは、欠食や不規則な食事を避け、規則的に食事をとることです。そのうえで、自分の場合に症状を悪化させる食品がないかを確認していきます。脂肪の多い食事、カフェイン、香辛料などが症状を悪化させる場合があります。また乳糖不耐症がある人では、牛乳などの乳製品が症状の原因となることがあります。

IBSの食事療法としてよく知られているものに低FODMAP食があります。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵してガスや水分を増やしやすい一群の炭水化物です。海外では有効性を示した研究がありますが、日本の診療ガイドラインでは、日本人における受け入れやすさや有効性については、さらに検討が必要とされています。過度な食事制限は栄養バランスを崩す可能性もあるため、自己判断で多くの食品を一度に除去することは勧められません。

適度な運動を取り入れる

身体活動を増やすことも治療選択肢の一つです。ランダム化比較試験では、身体活動を増やした群でIBSの症状が改善したことが報告されており、日本のガイドラインでも適切な運動を行うことが提案されています。

一方、睡眠不足や飲酒などがIBSと関連することはありますが、「睡眠を改善すればIBSそのものが改善する」といった因果関係については、明確なエビデンスはありません。基本的な生活リズムを整えることは大切ですが、生活習慣だけですべての症状を説明する必要はありません。

消化管運動機能調節薬

消化管運動機能調節薬は、単純に腸の動きを「止める」「促進する」のではなく、消化管運動を調整する目的で使用する薬です。

代表的なのがトリメブチンマレイン酸塩(セレキノン)です。日本ではIBSに対する効能を持ち、下痢型か便秘型かにかかわらず使用できる薬の一つです。ガイドラインでは、消化管運動機能調節薬をIBSに使用することが提案されています。

プロバイオティクス

プロバイオティクスとは、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌など、腸内環境に有益な作用をもたらす微生物や、それを含む製剤・食品を指します。

複数の研究をまとめた解析ではIBSに対する有用性が示されており、日本のガイドラインでも使用が推奨されています。

高分子重合体・食物繊維

IBSに特徴的な薬の一つがポリカルボフィルカルシウム(ポリフル)です。この薬は腸の中で水分を吸収して膨らむ性質があります。

下痢のときには余分な水分を吸収して便をまとまりやすくし、便秘のときには水分を保持して便を軟らかくする方向に働きます。そのため、下痢型と便秘型の両方で便通を整える目的に使用できます。日本の研究でも、下痢型では排便回数や便形状、腹痛の改善、便秘型では排便回数や便形状、腹痛の改善が報告されています。

食物繊維も有用ですが、種類による違いがあります。特にオオバコなどの水溶性食物繊維には比較的良いエビデンスがあります。一方、小麦ふすまなどの不溶性食物繊維を大量に摂取すると、腹痛や腹部膨満感が悪化する人もいるため、「IBSなら食物繊維をできるだけ多く摂ればよい」とは限りません。

漢方薬

日本のガイドラインでは、一部の漢方薬もIBSの治療選択肢として挙げられています。具体的には、桂枝加芍薬湯エキス、半夏瀉心湯エキス、大建中湯エキスなどについて研究があります。

ただし、漢方薬については質の高い臨床研究がまだ少なく、ガイドライン上の推奨も標準的な消化管治療より限定的です。治療フローチャートでも「症例によって」使用する位置づけとなっており、IBSだから最初から一律に漢方薬を使用するというものではありません。症状や体質などを考慮して選択します。

抗アレルギー薬

腸管の肥満細胞から放出されるヒスタミンなどが内臓知覚過敏に関係している可能性があり、抗アレルギー薬についても研究されています。海外ではケトチフェンフマル酸塩(ザジテン)やエバスチン(エバステル)などを用いた臨床研究があります。

ガイドラインでは抗アレルギー薬の有用性を支持するエビデンスが評価されていますが、第1段階の治療フローチャートでは「症例によって」使用する薬という位置づけです。また、日本では抗アレルギー薬にはIBSそのものに対する保険適用がありません。そのため、現時点で一般的な第一選択薬として使用する治療ではありません。

下痢型IBS(IBS-D)に有効な薬

下痢型IBSでは、これまで説明した共通治療に加えて、下痢、便意切迫、頻回の排便などを改善する薬を選択します。

5-HT3受容体拮抗薬

日本の下痢型IBS治療で重要な薬が、ラモセトロン塩酸塩(イリボー)です。

セロトニンは腸管運動や腸から脳へ伝わる感覚に関わっています。ラモセトロンは5-HT3受容体を遮断することによって、大腸の過剰な運動や便意切迫、軟便・下痢を抑えます。腹痛や腹部不快感を改善する効果も報告されています。

日本の診療ガイドラインでは、下痢型IBSに対する5-HT3受容体拮抗薬は強く推奨され、エビデンスレベルAと評価されています。日本ではラモセトロン塩酸塩(イリボー)が下痢型IBSの治療薬として使用できます。

便を硬くする方向に作用するため、便秘や硬便が生じることがあります。もともとの便の状態を確認しながら使用することが重要です。

止痢薬

下痢そのものが強い場合には、止痢薬を追加することがあります。代表的なのがロペラミド塩酸塩(ロペミン)です。

ロペラミドは腸管運動を抑え、便の回数を減らしたり、軟便を改善したりする作用があります。ただし、IBSの腹痛まで改善するかについては研究結果が一定していません。このため、ガイドラインでは5-HT3受容体拮抗薬ほど強い位置づけではなく、一部の下痢型IBSに使用することが提案されています。

「外出するから念のため多めに飲む」といった自己判断による過量使用は避ける必要があります。便秘を引き起こすだけでなく、極端な過量投与では重篤な副作用が生じる可能性があります。

便秘型IBS(IBS-C)に有効な薬

便秘型IBSでは、単に排便回数を増やすだけではなく、硬便、残便感、腹痛や腹部膨満感などを含めて治療を考えます。

粘膜上皮機能変容薬

便秘型IBSに対して、日本の診療ガイドラインで強く推奨されているのが粘膜上皮機能変容薬です。代表的な薬がリナクロチド(リンゼス)です。

リナクロチドは腸管内への水分分泌を増加させ、便を軟らかくして排便を促します。それだけでなく、腸から伝わる痛みの感覚を軽減する作用も期待されます。日本人の便秘型IBSを対象とした臨床試験でも、便通だけでなくIBS症状全体や腹痛・腹部不快感の改善が認められています。

同じ粘膜上皮機能変容薬にはルビプロストン(アミティーザ)があります。海外ではIBS-Cにも使用されていますが、日本での効能・効果は慢性便秘症であり、IBS-C単独の病名に対する保険適用ではありません。この違いには注意が必要です。

胆汁酸トランスポーター阻害薬

エロビキシバット水和物(グーフィス)は、回腸での胆汁酸の再吸収を抑えることで、大腸への水分分泌や大腸運動を促進する薬です。

日本では慢性便秘症に使用されますが、IBS-Cそのものを対象とした日本での保険適用薬ではありません。IBS-Cの中でも便秘症に対する治療が必要な場合に、病状や診断を踏まえて検討される薬と理解するのが適切です。

非刺激性下剤

便秘に対しては、非刺激性下剤も利用できます。

代表的な浸透圧性下剤である酸化マグネシウム(マグミット)は、腸管内に水分を保持して便を軟らかくします。日本では古くから広く使用されていますが、腎機能が低下している人や高齢者では高マグネシウム血症に注意が必要です。

マクロゴール4000・電解質配合剤(モビコール)も、腸管内に水分を保持することで排便を促す非刺激性下剤です。PEG(ポリエチレングリコール)製剤については、IBS-Cを対象とした臨床試験でも便秘改善効果が報告されています。

刺激性下剤は基本的に頓用で考える

刺激性下剤には、センノシド(プルゼニド)やピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン)などがあります。大腸を直接刺激して排便を促すため、速やかな効果が期待できます。

一方、日本のIBS診療ガイドラインでは、便秘型IBSに刺激性下剤を使用する場合は原則として頓用とすることが提案されています。日常的に刺激性下剤を追加し続けるのではなく、まず非刺激性下剤や便秘型IBSに適した治療を検討し、刺激性下剤は必要最小限に使用するという考え方です。

混合型・分類不能型はどのように治療する?

混合型IBSでは、便秘と下痢の両方がみられます。そのため、「混合型専用の薬」を使うというよりも、その時点で何が最も困っている症状なのかを考えて治療します。

例えば、下痢が強い時期に止痢作用の強い薬を使いすぎると便秘へ傾くことがあります。反対に、便秘の時期に下剤を強く使用すると、今度は下痢が目立つことがあります。ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル)や消化管運動機能調節薬など病型を問わず使用できる治療を土台としながら、その時々の便の状態や腹痛に合わせて治療を調節します。

分類不能型でも考え方は同様です。診断名だけを見て薬を選ぶのではなく、「腹痛」「下痢」「便秘」「腹部膨満感」など、現在の優勢症状に合わせて治療することが重要です。ガイドラインでも、IBSの病型または優勢症状をもとに治療を選択する考え方が示されています。

腹痛がつらい場合にはどのような薬を使う?

腹痛はIBSを特徴づける重要な症状であり、下痢型でも便秘型でもみられます。便通が改善しても腹痛だけが残る人もいます。

腹痛が強い場合に使用される代表的な薬が抗コリン薬です。抗コリン薬は腸管の平滑筋を緩め、腸のけいれんによる腹痛を軽減します。日本ではメペンゾラート臭化物(トランコロン)やブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)などが使用されています。日本のガイドラインでも、抗コリン薬はIBSの腹痛などの腹部症状に有用であるとして使用が提案されています。

ただし、抗コリン作用によって口渇、便秘、排尿しにくさ、眼のかすみなどが生じる場合があります。特に便秘型IBSでは、腹痛を抑えようとして便秘を悪化させないように注意する必要があります。

消化管の治療を行っても腹痛が続く場合には、内臓知覚過敏、つまり「腸から脳へ伝わる痛みの信号が過敏になっている状態」を治療する目的で、抗うつ薬が検討されることもあります。

ここまでの治療で改善しない場合はどうする?

IBSでは、一つの薬が効かなかったからといって、すぐに「治療できないIBS」と判断するわけではありません。

日本のガイドラインでは、まず食事・生活習慣の調整と消化管を主体とした治療を行い、薬の量や効果を確認しながらおおむね4~8週間で評価します。十分に改善しなければ、まだ使用していない消化管治療を検討するとともに、診断や病態を改めて見直します。

この段階では、ストレスや不安・抑うつなどが症状にどの程度関与しているかも評価します。関与が大きければ、中枢神経系への治療やストレスマネジメントなどを追加します。

反対に、心理的な要因の関与が乏しいのに通常の治療が効かない場合には、「心理的な問題だろう」と決めつけるのではなく、大腸粘膜の検査、小腸の検査、感染症や乳糖不耐症などの評価を必要に応じて行い、IBS以外の疾患が隠れていないかを改めて確認します。ここはIBS診療で非常に重要な点です。

さらに治療に反応しない場合には、重度の消化管運動異常などを再評価し、それまで使用していない薬剤や併用療法を検討します。それでも改善しなければ、専門的な心理療法を行い、最終的にはIBSという診断そのものを再検討することもガイドラインの治療アルゴリズムに含まれています。

IBSに抗うつ薬が使われることがあるのはなぜ?

「腸の病気なのに、なぜ抗うつ薬を使うのだろう」と疑問に感じる人もいるかもしれません。

IBSに抗うつ薬を使用する理由は、必ずしも「うつ病があるから」ではありません。IBSでは、腸から脳へ送られる刺激を通常より強い痛みとして感じる内臓知覚過敏が病態の一つと考えられています。抗うつ薬は脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達に作用し、痛みの感じ方を調節する作用を持つため、腹痛を軽減する目的でも使用されます。

研究が比較的多いのは、三環系抗うつ薬とSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。三環系抗うつ薬の代表例にはアミトリプチリン塩酸塩(トリプタノール)があります。ただし、日本ではIBSそのものはアミトリプチリンの保険適用疾患ではなく、IBSに対して抗うつ薬を使用する場合には適応や保険診療上の扱いを個別に確認する必要があります。

ガイドラインでは、三環系抗うつ薬は腹痛などへの有効性が比較的一貫している一方、眠気、口渇、便秘などの副作用にも注意が必要とされています。特に便秘を生じやすいため、下痢型と便秘型では薬を選ぶ際の考え方も異なります。SSRIについては研究によって結果にばらつきがあります。

また、不安症やうつ病そのものを合併している場合には、それらを適切に治療することもIBSの症状改善につながる可能性があります。ただし、現在抑うつ症状があっても過去に軽躁・躁状態が疑われる場合には双極症の可能性を検討する必要があり、ガイドラインでも抗うつ薬を使用する前の評価が重要であるとされています。

心理療法もIBSの治療法のひとつ

IBSに対する治療というと薬物療法を想像しやすいですが、心理療法にもエビデンスがあります。

日本の診療ガイドラインでは、IBSに対する心理療法は強い推奨、エビデンスレベルBと評価されています。研究されている治療には、認知行動療法、リラクセーション、催眠療法、ストレスマネジメント、力動的精神療法などがあります。

心理療法が有効であることは、「IBSの症状は気のせいである」という意味ではありません。

腸から脳へ送られる感覚と、脳から腸へ送られる自律神経・ストレス反応は互いに影響しています。例えば「電車でまた腹痛が起きたらどうしよう」という強い予期不安が生じると、腸管運動や内臓感覚が変化し、実際に腹痛や便意が強まることがあります。そして症状が起きることで、次回の不安がさらに強くなるという循環が形成されます。

認知行動療法などでは、このような症状、不安、行動の悪循環を整理し、症状に対する反応の仕方を変えていきます。消化管の病態を否定する治療ではなく、脳腸相関の「脳側」からも症状を調整する治療と考えると理解しやすいでしょう。心理療法と抗うつ薬の有効性については、複数のランダム化比較試験をまとめたメタアナリシスでも支持されています。

IBSでは消化器内科・心療内科・精神科をどう使い分ける?

IBSが疑われるものの、まだ十分な検査を受けていない場合には、まず消化器内科で評価を受けることが基本です。血便、体重減少、貧血、発熱などがある場合や、症状がこれまでと大きく変化した場合には、特に消化器疾患の除外が重要になります。

消化器疾患の評価を行ったうえでIBSと診断され、ストレスと腹部症状の関係が強い場合には、心療内科も選択肢となります。心療内科は、心理社会的要因と身体症状の関係を含めて診療する診療科です。

一方、うつ病や不安症などを合併している場合、抗うつ薬などの精神科薬物療法が必要な場合、あるいは専門的な心理療法が必要な場合には精神科が治療に関わることがあります。

特に、強い抑うつ、自殺の危険、幻覚・妄想、軽躁・躁状態などが認められる場合には、IBS治療のどの段階であっても精神科での評価を優先することが日本のガイドラインでも示されています。

IBSを「消化器内科で診る病気」か「心療内科・精神科で診る病気」かのどちらか一方に分ける必要はありません。腸の症状、器質的疾患を除外する必要性、心理的要因、併存する精神疾患などに応じて、それぞれの診療科の役割を組み合わせることが重要です。

まとめ|IBSはタイプと症状に合わせて治療を組み合わせる

過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常を繰り返す疾患であり、便の状態によって便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類されます。

治療では、まず食事や生活習慣を確認し、消化管運動機能調節薬、プロバイオティクス、高分子重合体など、病型を問わず使用できる治療を検討します。そのうえで、下痢型では5-HT3受容体拮抗薬や止痢薬、便秘型では粘膜上皮機能変容薬や下剤など、それぞれの症状に合った治療を追加します。

通常の消化管治療だけでは十分に改善しない場合には、他の消化器疾患が隠れていないかを再評価するとともに、ストレス、不安、抑うつ、内臓知覚過敏などの関与についても検討します。必要に応じて抗うつ薬や心理療法を組み合わせることも、ガイドラインに基づくIBS治療の一部です。

IBSは「腸の病気か、心の問題か」と二者択一で考える病気ではありません。腸と脳が互いに影響し合うことを踏まえ、その人の病型と優勢症状、背景に応じて治療を組み合わせていくことが重要です。

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