はじめに|抗うつ薬の副作用は、薬によって違うのか
うつ病の治療に使われる抗うつ薬には、さまざまな種類があります。同じ「抗うつ薬」であっても、眠気が出やすい薬、吐き気が問題になりやすい薬、便秘や口の渇きが起こりやすい薬など、その特徴は同じではありません。
抗うつ薬を選ぶときには、「どの薬が効くか」だけではなく、「どのような副作用が起こりやすいか」を考えることも重要です。たとえば、日中に車を運転する人にとっては眠気が大きな問題になる可能性があります。一方、別の患者さんでは吐き気や便秘、性機能への影響のほうが治療を続けるうえで重要になることがあります。
また、日本で使われる抗うつ薬の用量は海外と必ずしも同じではありません。薬を分解する酵素の働きにも個人差や集団差があるため、海外の研究で示された副作用の頻度を、そのまま日本人に当てはめられるとは限りません。
こうした問題に着目したのが、日本人だけを対象として抗うつ薬の安全性を比較したKishiらの研究です。
本記事では、2024年にKishiらが『Psychiatry and Clinical Neurosciences』に発表した「Safety profile of antidepressant for Japanese adults with major depressive disorder: A systematic review and network meta-analysis」をもとに、日本人のうつ病患者さんでは抗うつ薬によってどのような副作用の違いがみられたのかを解説します。
なお、論文では「adverse event(有害事象)」という言葉が使われています。有害事象とは、薬を服用している期間中に生じた好ましくない症状を指す言葉であり、その症状が薬によって起こされたことまで必ずしも証明するものではありません。本記事では読みやすさのため「副作用」という表現も使用しますが、研究上はこのような意味で評価された症状であることに注意が必要です。
日本人5,903人・13種類の抗うつ薬の副作用を比較した研究
Kishiらは、日本人の成人を対象として行われた二重盲検ランダム化比較試験を集め、抗うつ薬ごとの有害事象を比較しました。
最終的に解析されたのは20件の臨床試験、合計5,903人です。比較された抗うつ薬は以下の13種類でした。
- アミトリプチリン(トリプタノール)
- デュロキセチン(サインバルタ)
- エスシタロプラム(レクサプロ)
- フルボキサミン(デプロメール/ルボックス)
- イミプラミン(トフラニール)
- ミアンセリン(テトラミド)
- ミルナシプラン(トレドミン)
- ミルタザピン(リフレックス/レメロン)
- パロキセチン(パキシル)
- セルトラリン(ジェイゾロフト)
- トラゾドン(デジレル/レスリン)
- ベンラファキシン(イフェクサーSR)
- ボルチオキセチン(トリンテリックス)
研究では、日本で承認されている用量の範囲で使用された抗うつ薬について、プラセボ、つまり有効成分を含まない偽薬と比較しました。
調べられた副作用は、この記事で紹介する順番に並べると、眠気、倦怠感、めまい、吐き気、嘔吐、便秘、下痢、口渇、排尿障害、性機能障害、体重増加、体重減少、頭痛、不眠の14項目です。
結果を理解するうえで知っておきたいのが、「リスク比(RR:risk ratio)」です。
たとえば、ある副作用についてRRが2.0であれば、その副作用が起こった割合がプラセボ群のおよそ2倍だったことを意味します。RRが1.0なら両群でほぼ同じ、1.0より小さければ抗うつ薬群のほうが少なかったことを意味します。
以下では、主にプラセボとの比較で統計学的に明確な差が認められた結果を紹介します。
結果① 眠気・倦怠感・めまいはどの抗うつ薬で多かったのか
眠気
眠気は、抗うつ薬を服用している患者さんが日常生活で気づきやすい副作用の一つです。
今回の研究では、プラセボと比べて眠気が統計学的に多かったのは、次の6種類でした。
- アミトリプチリン(トリプタノール):RR 2.46
- エスシタロプラム(レクサプロ):RR 2.06
- ミアンセリン(テトラミド):RR 3.00
- ミルタザピン(リフレックス/レメロン):RR 2.20
- パロキセチン(パキシル):RR 2.49
- トラゾドン(デジレル/レスリン):RR 3.22
倦怠感
「体がだるい」「疲れやすい」といった倦怠感がプラセボより多かったのは、
- ミルタザピン(リフレックス/レメロン):RR 5.51
- パロキセチン(パキシル):RR 2.46
でした。
めまい
めまいがプラセボより多かったのは、
- アミトリプチリン(トリプタノール):RR 2.90
- デュロキセチン(サインバルタ):RR 2.46
- エスシタロプラム(レクサプロ):RR 3.88
- ミアンセリン(テトラミド):RR 5.94
でした。
この研究から、「どの抗うつ薬でも同じ程度に眠気やめまいが出るわけではない」ことは示唆されます。しかし、薬ごとの細かな順位まで確定できるほど精度の高いデータではない点には注意が必要です。
結果② 吐き気・嘔吐・便秘・下痢はどの抗うつ薬で多かったのか
抗うつ薬を開始したときに、吐き気や胃腸の不快感が気になる患者さんもいます。今回の研究でも、消化器系の副作用には薬による違いがみられました。
吐き気
吐き気がプラセボより統計学的に多かったのは、
- デュロキセチン(サインバルタ):RR 2.48
- エスシタロプラム(レクサプロ):RR 2.53
- ミルナシプラン(トレドミン):RR 2.52
- パロキセチン(パキシル):RR 2.13
- ベンラファキシン(イフェクサーSR):RR 2.68
- ボルチオキセチン(トリンテリックス):RR 3.77
でした。
嘔吐
実際に吐いてしまう「嘔吐」については、
- エスシタロプラム(レクサプロ):RR 6.03
- ミルナシプラン(トレドミン):RR 4.44
でプラセボより多い結果でした。
便秘
便秘については、13種類のうち多くの抗うつ薬でプラセボより増加していました。
統計学的に差が認められたのは、
- アミトリプチリン(トリプタノール):RR 4.07
- デュロキセチン(サインバルタ):RR 2.10
- フルボキサミン(デプロメール/ルボックス):RR 4.43
- イミプラミン(トフラニール):RR 4.31
- ミアンセリン(テトラミド):RR 5.25
- ミルナシプラン(トレドミン):RR 2.40
- ミルタザピン(リフレックス/レメロン):RR 3.44
- パロキセチン(パキシル):RR 2.80
- トラゾドン(デジレル/レスリン):RR 3.84
- ベンラファキシン(イフェクサーSR):RR 2.93
でした。
今回評価された副作用の中でも、便秘は比較的多くの抗うつ薬で差が認められた症状でした。
下痢
一方、下痢については「抗うつ薬によって増えた」という明確な結果はありませんでした。
むしろミルタザピン(リフレックス/レメロン)では、下痢のリスクがプラセボより低く、RR 0.25でした。これは下痢の報告がプラセボ群のおよそ4分の1だったことを示します。
結果③ 口の渇き・排尿しにくさはどの抗うつ薬で多かったのか
口の渇き
口渇とは、唾液が少なくなったように感じ、「口が乾く」「水を飲みたくなる」と感じる症状です。
プラセボより口渇が多かったのは、
- アミトリプチリン(トリプタノール):RR 3.26
- イミプラミン(トフラニール):RR 3.57
- ミアンセリン(テトラミド):RR 3.69
でした。
この3剤では、プラセボと比較して口渇が報告される割合がおおむね3倍以上となっています。
一方、エスシタロプラム(レクサプロ)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)などについても口渇自体は報告されていますが、今回の解析ではプラセボより明確に増加したとは判断されませんでした。
排尿しにくさ
排尿障害とは、尿が出にくい、尿の勢いが弱い、排尿を始めるまでに時間がかかるといった症状です。
プラセボと比較して排尿障害が多かったのは、
- イミプラミン(トフラニール):RR 12.68
- ミルナシプラン(トレドミン):RR 7.48
でした。
結果④ 性機能障害と体重変化はどの抗うつ薬で多かったのか
性機能障害
抗うつ薬による性機能への影響には、性欲の低下、勃起しにくい、射精しにくい、オーガズムに達しにくいなど、さまざまな症状があります。
こうした症状は患者さん側から医師に相談しにくい場合もあります。しかし、服薬継続や生活の質に影響し得るため、本来は重要な副作用です。
今回の研究では、プラセボと比較して性機能障害が多かったのは、
- デュロキセチン(サインバルタ):RR 11.91
- パロキセチン(パキシル):RR 6.79
でした。
ただし、ここでも数字の解釈にはかなり注意が必要です。
また、他の抗うつ薬で統計学的な差がなかったからといって、性機能障害が起こらないという意味でもありません。性機能に関する症状は患者さんから報告されにくいこともあり、この研究だけで薬剤間の違いを完全に評価することは困難です。
体重増加
意外に感じられるかもしれませんが、今回の研究では、プラセボより体重増加が明確に多いと判断された抗うつ薬はありませんでした。
たとえば体重増加の副作用があることで有名なミルタザピン(リフレックス/レメロン)についてはRR 10.38でしたが、95%信頼区間は0.63~171.28と非常に広く、統計学的に明確な差とはいえませんでした。
体重減少
体重減少については、パロキセチン(パキシル)でプラセボより多く、RR 6.38(95%信頼区間1.70~23.96)でした。
結果⑤ 頭痛や不眠についてはどうだったのか
ここまで、抗うつ薬群でプラセボより多かった副作用を中心に紹介してきました。しかし、すべての症状が抗うつ薬によって増えたわけではありません。
頭痛
頭痛については、むしろプラセボより報告が少なかった抗うつ薬がありました。
- アミトリプチリン(トリプタノール):RR 0.32
- フルボキサミン(デプロメール/ルボックス):RR 0.35
- ミルタザピン(リフレックス/レメロン):RR 0.34
でした。
不眠
不眠については、今回比較された13種類の抗うつ薬のうち、プラセボより明確に不眠を増加させた薬はありませんでした。
ただし、これは「抗うつ薬では不眠が起こらない」という意味ではありません。
たとえばボルチオキセチン(トリンテリックス)の不眠はRR 2.54でしたが、95%信頼区間は0.69~9.32で、プラセボより増えるとも増えないとも統計学的に確定できませんでした。
このように、臨床研究で「有意差がない」という結果は、「副作用が存在しない」こととは異なります。研究参加者数が少なかったり、副作用そのものの発生件数が少なかったりすると、実際には差があっても統計学的に確認できないことがあります。
この研究の結果を読むときに知っておきたい限界
今回の研究には、「日本人の成人に、日本で承認されている用量の抗うつ薬を使用した試験だけを対象とした」という大きな特徴があります。
海外の大規模研究だけでは分かりにくい、日本の臨床に近い情報を得られる点は重要です。
一方、この研究には大きな限界もあります。
最も重要なのは、ほとんどの比較について、エビデンスの確実性が「very low(非常に低い)」と評価されていることです。
これは、「研究に価値がない」という意味ではありません。
むしろ、
現時点で利用できるデータをまとめると、このような違いが示された。しかし、その差がどの程度確実なのかについては、まだ十分な証拠がない
という意味です。
実際、この記事で紹介した結果を見ても、信頼区間が非常に広いものが少なくありません。
たとえばデュロキセチン(サインバルタ)の性機能障害はRR 11.91でしたが、95%信頼区間は1.03~137.65でした。イミプラミン(トフラニール)の排尿障害もRR 12.68ですが、信頼区間は1.64~98.15です。
このような結果では、「副作用が増える可能性」は示されても、「実際に何倍増えるのか」を精密に判断することはできません。
また、研究に含まれたのは20試験、5,903人です。抗うつ薬は13種類あるため、すべての薬について十分な人数が集まっているわけではありません。
さらに、研究者らは製薬企業や元の研究の著者に不足しているデータの提供を依頼しましたが、必要なデータをすべて入手することはできませんでした。
そのため、今回「差がなかった」とされた薬についても、本当に他の薬より安全なのか、単にデータが不足していたのかを区別できない場合があります。
もう一つ重要なのは、今回の解析が副作用の絶対的な発生率ではなく、主としてプラセボとの相対的なリスクを比較していることです。
RRが3だからといって、「3人に1人に起こる」「30%に起こる」という意味ではありません。
仮にプラセボで1%に起こる症状が3%になった場合もRRは3ですし、10%から30%になった場合もRRは3です。患者さんにとって実際にどの程度のリスクがあるかを判断するには、本来は絶対的な発生率も重要です。
したがって、今回の結果を「抗うつ薬の副作用ランキング」として使用するのは適切ではありません。
抗うつ薬は「副作用が少ない薬」ではなく、その人に合った薬を選ぶことが重要
Kishiらの研究からは、日本人のうつ病患者さんでも、抗うつ薬によって副作用の現れ方が異なる可能性が示されました。
眠気が多かった薬、吐き気が多かった薬、便秘が多かった薬、口の渇きや排尿障害、性機能障害についてシグナルが認められた薬など、その特徴は一様ではありません。
しかし、「副作用の少ない薬ランキング」を作り、その上位の薬を選べばよいわけではありません。
まず、今回の研究ではほとんどの比較のエビデンスの確実性が非常に低く、薬同士の細かな順位を確定できるほどのデータはありません。
また、患者さんによって、避けたい副作用も異なります。
仕事中の眠気をできるだけ避けたい人もいれば、吐き気を特につらく感じる人もいます。便秘がもともとある人では便秘の起こりやすさが重要になりますし、性機能への影響を特に避けたい人もいます。
さらに、薬を選ぶ際には副作用だけではなく、その薬がうつ症状にどの程度効果を示すのかも同時に考える必要があります。
大規模な研究では、抗うつ薬によって平均的な有効性と治療の続けやすさに一定の違いがあることも示されています。一方で、集団として平均的に成績がよかった薬が、一人ひとりの患者さんに必ず最適とは限りません。
抗うつ薬を選ぶときに重要なのは、「最も副作用が少ない薬」を探すことではなく、期待される効果と、その患者さんにとって問題になりそうな副作用の両方を考えながら、治療を調整していくことです。
参考文献
Kishi T, Ikuta T, Sakuma K, Hatano M, Matsuda Y, Esumi S, Miyake N, Miura I, Kato M, Iwata N. Safety profile of antidepressant for Japanese adults with major depressive disorder: A systematic review and network meta-analysis. Psychiatry and Clinical Neurosciences. 78(2):142-144. 2024.