はじめに
ケタミンは、治療抵抗性うつ病などに対して比較的速やかな抗うつ作用を示すことから、精神科領域で研究が進められている薬です。
一方、MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は、主に心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法との併用について研究されてきました。
ケタミンとMDMAでは、最初に作用する場所が大きく異なります。
ケタミンは主としてグルタミン酸系のNMDA受容体に作用します。一方、MDMAではセロトニントランスポーターをはじめとするモノアミントランスポーターへの作用が重要です。
それにもかかわらず、近年はどちらも「psychoplastogen(サイコプラストゲン)」という共通の視点から研究されることがあります。
psychoplastogenとは、簡単にいえば、神経細胞や神経回路が変化する能力である「神経可塑性」を比較的速やかに高める可能性のある薬物を指す言葉です。
では、ケタミンやMDMAによって、脳はどのように「変化しやすい状態」になるのでしょうか。
その手がかりとして注目されているのが、エピジェネティクスです。
2026年、Sempleらは医学誌『Translational Psychiatry』に、ケタミン治療とMDMA治療の前後でDNAメチル化がどのように変化するのかを調べた研究を発表しました。
研究では、ケタミン治療を受けた20人とMDMA治療を受けた16人の検体を解析しました。その結果、ケタミンでは405遺伝子、MDMAでは346遺伝子に関連するDNAメチル化の変化が認められ、これらの変化は神経可塑性や神経免疫に関連する経路へ集まっていました。
本記事では、2026年にSempleらが発表した『Translational Psychiatry』掲載論文「Brain-targeted epigenetic effects of two emerging psychoplastogens: ketamine & MDMA」をもとに、ケタミンとMDMAが遺伝子の働き方にどのような変化をもたらし、それが神経可塑性とどのように関係する可能性があるのかについて解説します。
背景|「遺伝子の働き方が変わる」とはどういうことか
「薬によって遺伝子が変化する」と聞くと、
「DNAそのものが書き換えられてしまうのではないか」
と心配になる方もいるかもしれません。
しかし、今回の研究が調べているのは、そのようなDNA配列そのものの変化ではありません。
重要なのは、同じDNAを持っていても、そのDNAをどのように使うかが変化するということです。
DNAは同じでも、使われる遺伝子は変わる
私たちのほとんどの細胞には、基本的には同じDNAが入っています。
それにもかかわらず、神経細胞と肝臓の細胞では形も働きも大きく異なります。
これは、細胞によって「どの遺伝子を使うか」が異なるためです。
DNAを巨大な料理本にたとえてみます。
料理本そのものは同じでも、神経細胞はあるページをよく開き、肝臓の細胞は別のページをよく開きます。
つまり重要なのは、DNAという「設計図」そのものだけではなく、設計図のどの部分を読みやすくするか、どの部分を読みづらくするかという調節です。
このように、DNA配列そのものを変えずに遺伝子の働き方を調節する仕組みを、エピジェネティクスと呼びます。
DNAメチル化とは何か
エピジェネティクスにはいくつかの仕組みがあります。
今回の研究で調べられたのが、DNAメチル化です。
DNAの特定の場所に「メチル基」という小さな化学構造が付いたり外れたりする現象です。
一般的には、DNAメチル化の状態が変化すると、その周辺にある遺伝子がどの程度利用されやすいかに影響します。
ただし、
「メチル化が増えれば必ず遺伝子の働きが弱くなる」
と単純に考えることはできません。
DNAのどの場所に変化が起きたのかによって意味が異なるためです。
また今回の研究では、実際にそれぞれの遺伝子から作られるRNAやタンパク質が増えたか減ったかまで直接測定しているわけではありません。
したがって、今回確認されたDNAメチル化の変化は、
「遺伝子の利用のされ方を調節し得るエピジェネティックな変化が起きた」
と理解するのが適切です。
背景|ケタミンとMDMAは「脳を変化しやすい状態」にする薬として研究されている
神経可塑性とは何か
私たちの脳は、完成した電気回路のように一度作られたら固定されるわけではありません。
新しいことを学んだり、経験を積んだりするたびに、神経細胞同士のつながり方は少しずつ変化しています。
このように、経験や刺激に応じて神経細胞や神経回路が変化する性質を神経可塑性と呼びます。
たとえば、
- 新しい情報を学習する
- 新しい行動を身につける
- 環境の変化に適応する
- 心理療法を通して考え方や行動パターンを変える
といったことにも、広い意味では神経可塑性が関係しています。
psychoplastogenとは何か
近年、ケタミンや一部の精神作用薬について、psychoplastogenという考え方が提唱されています。
psychoplastogenは、
「psycho=精神・心」
「plastogen=可塑性を生み出すもの」
を組み合わせた言葉です。
特定の薬物によって神経細胞の樹状突起やシナプスなどが変化し、神経回路が再編されやすい状態が作られる可能性に注目した概念です。
ケタミンでは、NMDA受容体への作用を起点としてAMPA受容体、BDNF、mTORなどに関連するシグナルが変化し、神経可塑性につながる可能性が研究されています。
一方、MDMAは主としてセロトニントランスポーターに作用し、セロトニンを中心にノルアドレナリンやドパミンなどの神経伝達を大きく変化させます。
つまり、ケタミンとMDMAは異なる作用メカニズムを持つ薬剤です。
それでも、その先で神経可塑性に関係する分子経路へ影響する可能性があることから、今回の研究では両者をpsychoplastogenとして比較しています。
研究方法|ケタミン治療とMDMA治療の前後でDNAメチル化を比較した
今回の研究では、すでに行われていた2つの臨床研究から得られた検体を使用しています。
ケタミンについては20人、MDMAについては16人が解析対象となりました。
ケタミン群では、うつ病またはPTSDの患者さんに0.5mg/kgのケタミンを計6回、2〜3週間かけて点滴しています。
血液は治療開始前と、最後のケタミン投与から10日後に採取されました。
MDMA群はPTSDを対象とした臨床試験の参加者で、80〜180mgのMDMAを使用する3回の治療セッションを受け、その後に体験を振り返って心理的に整理する統合セッションが行われています。
唾液は治療開始前と、最後のMDMAセッションから約6〜8週間後に採取されました。
研究者らは、これらの血液や唾液からDNAを取り出し、脳の機能に関連する遺伝子を中心にDNAメチル化の変化を解析しました。
ここで一つ重要な点があります。
論文タイトルには「Brain-targeted」とありますが、患者さんの脳組織を直接採取して調べた研究ではありません。
ケタミンでは血液、MDMAでは唾液を使用し、その中から「脳の健康や機能に関連することが知られている遺伝子」に対象を絞って解析した研究です。
この点は、結果を解釈するときに非常に重要です。
結果|ケタミン治療後には数百の遺伝子に関連するDNAメチル化が変化した
ケタミン治療前後の血液を比較すると、405の遺伝子に関連するDNAメチル化に有意な変化が認められました。
さらに、個々の遺伝子を一つずつ見るだけではなく、それらがどのような生物学的機能に関係するのかを解析したところ、169の機能的ネットワークに有意な関連が認められました。
特に注目されたのが、神経細胞同士の情報伝達や神経可塑性に関係する遺伝子です。
神経細胞のつながりに関係する遺伝子が変化していた
たとえばケタミン治療後には、NRN1という遺伝子に関連するDNAメチル化の変化がみられました。
NRN1は「neuritin 1」というタンパク質に関係する遺伝子で、神経細胞から伸びる突起の成長やシナプス形成などに関係しています。
また、CDK5R1など、樹状突起やシナプスの発達に関係する遺伝子にも変化が認められました。
さらに、解析された機能的経路には、グルタミン酸シナプスに関係するものも含まれていました。
これはケタミンの既知の作用とも整合します。
ケタミンはNMDA受容体を介してグルタミン酸系に作用する薬です。その治療後に、グルタミン酸による神経伝達や神経細胞の構造変化に関連する遺伝子周辺でエピジェネティックな変化が認められたことになります。
ただし、これだけで、
「ケタミンによって神経細胞が実際に増えた」
「シナプスが405個の遺伝子によって作り替えられた」
という意味ではありません。
今回直接測定されたのは、あくまで末梢血中のDNAメチル化です。
結果|MDMA治療後にも神経可塑性に関連するDNAメチル化の変化がみられた
MDMAについても、多数の変化が認められました。
治療前後の唾液を比較したところ、346遺伝子に関連するDNAメチル化が有意に変化していました。
さらに、これらの遺伝子から183の機能的ネットワークが抽出されました。
MDMAでは、ケタミンとは少し異なる特徴もみられました。
BDNFに関連する変化がみられた
特に興味深いのが、BDNFに関連するDNAメチル化の変化です。
BDNFは「脳由来神経栄養因子」と呼ばれるタンパク質です。
神経細胞が生存したり、神経細胞同士のつながりを変化させたりする際に重要な役割を持ち、神経可塑性を考えるうえで非常に重要な分子の一つです。
今回の研究では、BDNFだけではなく、その関連する神経栄養因子シグナルにも変化が認められました。
また、SLC6A3というドパミントランスポーターに関係する遺伝子にも変化が確認されています。
MDMAはセロトニンだけではなく、ドパミンやノルアドレナリンの神経伝達にも作用するため、これらの結果はMDMAの既知の薬理作用とも一定の整合性があります。
つまり、ケタミンとMDMAでは最初に作用する場所は違いますが、どちらの治療後にも、神経伝達や神経可塑性に関係する遺伝子周辺でエピジェネティックな変化が認められたのです。
結果|ケタミンとMDMAには共通するエピジェネティックな変化があった
では、ケタミンとMDMAでは、どの程度同じ変化が起きていたのでしょうか。
研究者らが両者を比較すると、521か所のCpG部位が共通して変化していました。
CpG部位とは、DNA上でシトシン(C)とグアニン(G)という塩基が隣り合っている場所です。
DNAメチル化はこうした場所で起こることが多いため、エピジェネティクス研究ではCpG部位が重要な測定対象になります。
遺伝子単位で見ると、47遺伝子がケタミンとMDMAの両方で変化していました。
共通していた遺伝子には、
- PTPRN2:神経伝達物質を放出する小胞の働きに関連
- PRKAR1B、PRKCZ:神経活動に応じた細胞内シグナルに関連
- SHANK2:シナプスの構造形成に関連
など、神経細胞同士の情報伝達やシナプス形成に関係する遺伝子が含まれていました。
「共通していた」といっても、全く同じ変化ではない
ここは今回の研究を理解するうえで重要です。
521か所の共通するCpG部位のうち、ケタミンとMDMAで同じ方向に変化していたのは48.7%でした。
また、共通する47遺伝子のうち、同じ方向の変化を示したのは27%でした。
さらに、共通するCpG部位における変化量そのものには明確な相関がなく、相関係数はρ=0.047、p=0.28でした。
遺伝子単位でも、変化量の相関はρ=−0.26、p=0.07で、有意な一致は確認されませんでした。
したがって、
「ケタミンとMDMAは同じ遺伝子を同じように変化させる」
と結論づけるのは適切ではありません。
むしろ今回の結果は、
個々の遺伝子レベルでは異なる変化が多い一方、より大きな生物学的機能として見ると、神経可塑性やシナプス形成という似た方向へ収束している可能性がある
と理解する方が適切です。
考察|ケタミンとMDMAは異なる経路から「脳を変化しやすい状態」へ導く可能性がある
ケタミンとMDMAは、作用機序が異なる薬です。
ケタミンは主としてNMDA受容体に作用し、グルタミン酸系の神経伝達を変化させます。
MDMAは主としてセロトニントランスポーターなどに作用し、セロトニンを中心とするモノアミン神経伝達を大きく変化させます。
それにもかかわらず、今回の研究では両方の治療後に、
- シナプス形成
- 神経細胞の突起
- 神経伝達
- 神経可塑性
- 神経免疫
などに関連するDNAメチル化の変化が確認されました。
道路にたとえると、ケタミンとMDMAは、出発地点も通る道路も同じではありません。
しかし、それぞれ別の経路を通りながら、最終的には「神経回路を変化させる」という同じ目的地へ近づいている可能性があります。
このような考え方が、両者をpsychoplastogenとして捉える背景にあります。
「脳を変化しやすくする」とは、何でも自由に変わるという意味ではない
ここでいう「脳が変化しやすい状態」は、脳が無秩序に変化するという意味ではありません。
より正確には、経験や神経活動に応じて神経回路を再編する能力が一時的に高まる可能性を意味します。
たとえば、神経細胞同士の新しいつながりが作られたり、既存のつながりの強さが変化したりすることで、これまで固定化されていた情報処理のパターンが変化しやすくなる可能性があります。
精神科治療という観点では、こうした時期に新しい経験や心理療法、生活環境の変化などが加わることで、持続的な変化につながる可能性も研究されています。
ただし、今回の研究では心理療法の効果とDNAメチル化の関係を直接検証したわけではありません。
また、DNAメチル化の変化から神経可塑性そのものを直接測定したわけでもありません。
したがって、現段階では「脳を変化しやすい状態にする」という表現は、今回みつかった分子変化から考えられる仮説の一つとして理解する必要があります。
考察|エピジェネティックな変化は、治療効果が続く理由を説明できるのか
ケタミンやMDMAに関する研究で興味深い疑問の一つが、
「薬そのものが体内からなくなったあとにも、なぜ治療効果が続くのか」
という点です。
薬の血中濃度だけを考えれば、薬理作用は薬が体内から減少するにつれて弱くなっていくはずです。
しかし精神科治療では、薬の急性作用が終わったあとにも症状の改善が続くことがあります。
そこで研究者らが注目している候補の一つが、エピジェネティックな変化です。
今回のケタミン群では、DNAメチル化を調べるための血液が最後の治療から10日後に採取されています。
MDMA群では、唾液が最後のMDMAセッションから約6〜8週間後に採取されています。
つまり今回検出されたDNAメチル化の違いは、薬を投与した直後だけにみられた一過性の変化ではありません。
少なくとも、治療から一定期間が経過した時点でも、治療前とは異なるエピジェネティックな状態が検出されたことになります。
これは、
薬による短時間の神経伝達物質の変化が、その後により長く続く分子レベルの変化へつながる可能性
を考えるうえで興味深い結果です。
ただし、ここには大きな注意点があります。
今回の研究では、
「DNAメチル化が変化した人ほど症状改善が長く続いた」
という因果関係を示しているわけではありません。
したがって、
「ケタミンやMDMAの効果が続くのは、DNAメチル化が変わるからである」
と結論づけることはできません。
現時点では、エピジェネティックな変化は、治療後にも残る生物学的変化の候補の一つと考えるのが適切です。
この研究の限界|血液や唾液の変化を、そのまま脳の変化とは考えられない
今回の研究は、ケタミンとMDMAという異なる薬物をエピジェネティクスという共通の視点から比較した興味深い研究です。
一方、結果を解釈する際には重要な限界があります。
脳そのものを測定した研究ではない
最も重要なのは、この研究で採取されたのが血液と唾液であることです。
ケタミンでは血液、MDMAでは唾液が使用されています。
「脳に関連する遺伝子」に解析対象を絞ってはいますが、脳組織そのもののDNAメチル化を測定したわけではありません。
著者らも、今回確認されたのは末梢組織におけるエピジェネティックな変化であると位置づけています。
したがって、
「ケタミンによって脳の405遺伝子が変化した」
と表現するのは正確ではありません。
より正確には、
「ケタミン治療後の血液で、脳機能に関連する405遺伝子についてDNAメチル化の変化が確認された」
という結果です。
ケタミンとMDMAで検体の種類が異なる
ケタミンでは血液を使用し、MDMAでは唾液を使用しています。
血液と唾液では含まれている細胞が異なるため、DNAメチル化のパターンも異なります。
研究では細胞組成の違いを統計的に調整していますが、両者を完全に同じ条件で比較しているわけではありません。
治療内容や測定時期も異なる
ケタミンでは0.5mg/kgを6回投与し、最後の治療から10日後に測定しています。
MDMAでは3回のMDMA治療セッションが行われ、最後のセッションから約6〜8週間後に測定しています。
対象となる疾患や心理療法の有無などにも違いがあります。
したがって、今回の研究は、
「同じ条件の患者さんをケタミン群とMDMA群にランダムに分け、どちらがDNAメチル化を強く変えるか比較した研究」
ではありません。
「405遺伝子と346遺伝子だから、ケタミンの方がエピジェネティックな作用が強い」と比較することもできません。
DNAメチル化が変わっても、遺伝子が実際にどう働いたかまでは分からない
DNAメチル化は遺伝子発現を調節する重要な仕組みの一つです。
しかし今回の研究では、DNAメチル化の変化に対応して、それぞれの遺伝子のRNAやタンパク質が実際にどの程度増減したのかまでは確認されていません。
したがって、
DNAメチル化の変化=その遺伝子の働きが同じ程度変化した
とは考えられません。
神経可塑性そのものを直接測定したわけではない
今回、変化した遺伝子や機能的経路の多くが神経可塑性に関連していました。
しかし、患者さんのシナプス数や樹状突起の伸長を直接測定した研究ではありません。
したがって、
「ケタミンやMDMAによって人間の脳の神経可塑性がこの程度上昇した」
ということまでは示されていません。
対象人数は比較的小さい
解析対象は、ケタミン20人、MDMA16人でした。
エピジェネティクスは、年齢、性別、生活習慣、喫煙、薬物、ストレス、細胞組成など多くの要因から影響を受けます。
そのため、今回みつかった変化が別の大規模な患者集団でも再現されるかを確認する必要があります。
まとめ|ケタミンとMDMAは異なる作用から、共通して神経可塑性に関わる変化を起こす可能性がある
今回の研究では、ケタミン治療を受けた20人とMDMA治療を受けた16人について、治療前後のDNAメチル化が調べられました。
その結果、ケタミンでは405遺伝子と169の機能的ネットワーク、MDMAでは346遺伝子と183の機能的ネットワークに関連する変化が認められました。
さらに両者には、521か所のCpG部位と47遺伝子という共通部分がありました。
その中には、SHANK2、PTPRN2、PRKAR1B、PRKCZなど、シナプス形成や神経伝達に関係する遺伝子が含まれていました。
一方、共通するCpG部位のうち同じ方向へ変化していたものは48.7%、共通する遺伝子では27%にとどまり、個々の変化量にも明確な相関はありませんでした。
つまり、ケタミンとMDMAが全く同じエピジェネティックな作用を起こしているわけではありません。
むしろ、
作用の入口や個々の分子変化は異なっていても、より大きな機能として見ると、神経可塑性やシナプスの再編成に関連する方向へ収束している可能性がある
というのが、今回の研究から見えてくる重要な点です。
さらに、これらのDNAメチル化変化は、ケタミンでは最後の治療から10日後、MDMAでは約6〜8週間後にも確認されました。
このことは、ケタミンやMDMAが神経伝達物質を一時的に変化させるだけではなく、その後にも残る分子レベルの変化を引き起こす可能性を示しています。
ただし、今回測定されたのは脳そのものではなく、血液や唾液のDNAメチル化です。
また、エピジェネティックな変化が神経可塑性を直接高め、それによって症状改善が持続するという因果関係まで証明されたわけではありません。
それでも今回の研究は、ケタミンやMDMAのようなpsychoplastogenを、
「一時的に気分や意識状態を変化させる薬」だけではなく、遺伝子の利用のされ方に関係する仕組みを介して、神経回路が変化するための生物学的環境に影響する可能性のある薬
として理解するための新しい手がかりを示した研究といえるでしょう。
参考文献
Semple MG, Mennenga SE, Smith R, Dwaraka VB, Cahn BR, Tafur J, Rabin DM, Yazar-Klosinski B, Lewis CR. Brain-targeted epigenetic effects of two emerging psychoplastogens: ketamine & MDMA. Translational Psychiatry. Online ahead of print. 2026.